このページでは、株主の権利について整理しています。

以下で公開会社とは、一部でも譲渡制限のない株式を発行している会社を、非公開会社又は閉鎖会社とは全発行株式が譲渡制限株式である会社を指します。譲渡制限株式とは、株式譲渡を行う場合、株主総会決議又は取締役会決議が必要な株式をいいます。

なお、中小企業を念頭に置いていますので、上場関係の規制には触れていません。

1 株主の権利:自益権

⑴ 自益権(まとめ)

自益権とは、会社から直接に経済的利益を受ける権利で、配当請求権が典型的なものです。1株でも行使が可能です。まとめると以下のようになります。詳細は⑵~⑸をご確認ください。

分類内  容
通常時・剰余金の配当を受ける権利(105条1項1号、453条)→⑵

・株式買取請求権(116条、160条3項、182条の4、192条1項、469条、785条、797条、806条)→⑶
 取得請求権付株主の取得請求権(166条1項)
解散時残余財産の分配を受ける権利(105条1項2号、504条)→⑷
その他株主名簿の名義書換請求権(130条1項、133条)
株券発行請求権(215条1項~3項、230条) など

⑵ 剰余金の配当請求権

剰余金の配当を受ける権利です(会社法453条)。配当の手続や要件については以下のリンク先をご参照下さい。

⑶ 株式買取請求権

会社が組織再編行為や定款変更などを行う場合、それに反対する株主に与えられた権利です。詳細については、以下のリンク先をご参照下さい。なお、似たような権利として、取得請求権付株式の取得請求権(会社法166条1項)があります。

⑷ 残余財産分配請求権

会社清算時の残余財産の分配を受ける権利です(会社法504条)。

⑸ その他

上記の他に以下のような権利があります。

①株主名簿の名義書換請求権(会社法133条

②株券発行会社であれば株券発行請求権(215条、230条2項

③募集株式の割当を受ける権利(会社法202条)。募集株式の発行(増資)については、以下のリンク先をご参照下さい。

2 株主の権利:共益権

共益権は、株主が会社経営に関与する権利です。株主総会の議決権(会社法308条1項、325条)が典型ですが、その他にもいくつかあります。多くの場合、一定数(割合)の株式を有していないと権利行使できないのが特徴です。以下のようなものがあります。

⑴ 株主名簿閲覧・謄写請求権(会社法125条2項、3項)

株主は、会社の営業時間内であれば、株主名後の閲覧・謄写を請求することができます。なお、単独株主権です。株主は、請求の理由を明らかにしてしなければなりません。

会社は、以下の場合閲覧・謄写を拒めます(該当しない場合は開示をしなければなりません)
①株主の権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき、
②請求者が会社の業務遂行を妨げ、又は株主共同の利益を害する目的で請求を行ったとき、
③請求者が株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき、
④請求者が、過去2年以内において、株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき

会社が、株主名簿の閲覧・謄写の請求を拒絶した場合、株主は株主名簿の閲覧謄写請求訴訟を提起することが可能です。通常、拒絶事由の有無を巡って争われます。

⑵ 計算書類等の閲覧・謄写(会社法442条)

株主は、株式会社の営業時間内であれば、計算書類等の閲覧・謄写を請求することができます。なお、単独株主権です。

会社が拒絶した場合、株主は計算書類等の閲覧・謄本交付を求めて訴訟を提起することが可能です。被告は会社又は会計参与となります。

なお、株主名簿のように、請求理由を明らかにする必要はなく、また会社が拒否することができる場合も定められていません。

⑶ 会計帳簿閲覧・謄写請求権(会社法433条

【請求できる要件及び、閲覧謄写の対象】
議決権の3%以上の議決権(定款で引下げることは可能です)を有する株主又は、発行済株式(自己株式を除く。)の3%以上の数の株式(定款で引下げることは可能です)を有する株主は、会社の営業時間内であれば、会計帳簿又はこれに関する資料(電磁的記録である場合は、それを紙面又は映像面に表示したもの。規則226条)の閲覧・謄写を請求をすることができます。
株主は、請求の理由を明らかにしてしなければなりません。請求の理由は具体的に明らかにしてしなければなりませんが(最判H2.11.8)、請求の理由を基礎づける事実が客観的に存在することまでを証明する必要はないとされています(最判H16.7.1)。

参考裁判例

東京地決H1.6.22 損益計算書及び申告調整に必要な総勘定元帳を材料に作成される法人税確定申告書控えは、会計帳簿の閲覧・謄写の対象でないとした裁判例

横浜地判H3.4.19 閲覧・謄写請求の対象となる会計帳簿の対象を限定的に解した裁判例

東京地判R4.11.9 「請求の理由を明らかにして」したものとは認められないとした裁判例

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会社法433条1項が、株主に請求理由を具体的に明らかにさせることとしたのは、会社が閲覧謄写に応ずる義務の存否及び閲覧させるべき会計帳簿等の範囲を判断できるようにするとともに、株主による探索的・証拠漁り的な閲覧等を防止し、株主の権利と会社の経営の保護とのバランスをとることにあるものと解される。そして、会社は、請求理由との関連性ないし必要性を欠く会計帳簿等については、これを株主に閲覧謄写をさせる義務がないものと解されるから、例えば、株主が会社の財政状況等を確認し、誤った経営判断についての疑いを調査するために会計帳簿閲覧謄写請求をする場合には、具体的に特定の行為が違法又は不当である旨を明らかにしなければならず、その具体性の程度は、会社がその理由を見て、その理由との関係で、関連性ないし必要性がある会計帳簿等を特定できる程度に具体的でなければならないものと解される。これを逆にいえば、株主が特定の会計帳簿等を対象として閲覧謄写請求をする場合、請求理由としての特定の行為が違法又は不当である旨の主張は、対象とされる会計帳簿等との関係で、関連性ないし必要性が理解できる程度に具体的に明らかにされる必要があるということができる。・・・これを本件についてみるに、Xの主張する閲覧謄写請求の理由は、要するに、〈1〉本件退職慰労金支払が、被告の財務状況を著しく圧迫し、今後の健全な会社経営を困難にするものであるにもかかわらず、〈2〉取締役がそのような判断をしたことは任務懈怠(善管注意義務違反ないし忠実義務違反)にあたる可能性があり、〈3〉当該判断の任務懈怠該当性を判断するには、会社の財務状況及び経営状況を明らかにし、Aの貢献度を調査しなければならず、そのためには被告の総勘定元帳を確認する必要があるというものである。・・・〈1〉については、そもそも、Xに対し既に閲覧に供されているYの計算書類等・・・により判断することが可能であり、会計帳簿等により判断できるものではないから、その判断のために会計帳簿等の閲覧謄写が必要とは考え難い。・・・次に、Xの主張する閲覧謄写請求の理由は、〈1〉のような財務状況においては、〈3〉Aの貢献度の高低によって、〈2〉取締役の任務懈怠が認められる可能性があるとの趣旨をいうものと解される・・・しかし、そもそも、総勘定元帳の記載を確認したところで、取締役の何らかの貢献度が明らかになるとは考え難いところ、原告は、Aの取締役としての貢献度がどのようなものであった場合に本件退職慰労金支払を決定した取締役の判断が任務懈怠となるのか、総勘定元帳のどの部分を確認すればどのようなAの貢献度をどのように判断することができるのかについて具体的に主張していない。そうすると、〈1〉〈2〉〈3〉をもって、これとXが閲覧謄写を求める総勘定元帳の全部ないし一部との関連性ないし必要性が理解できる程度に請求理由(取締役の特定の行為が違法又は不当である旨)が具体的に明らかにされたということはできない。

東京地判R4.11.22 請求の一部につき「請求の理由を明らかにして」したものと認めらるとした裁判例

【閲覧謄写請求を拒絶できる場合】
会社は、以下のいずれかに該当すると認められる場合は、閲覧謄写を拒絶できます。
① 請求者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。なお、自益権行使のためであっても認められます(最判H16.7.1)。
② 請求者が会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。
③ 請求者が会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき(参考裁判例:最判H21.1.15、東京地判H19.9.20)。
④ 請求者が会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求したとき。
⑤ 請求者が、過去2年以内に、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。

会社が、閲覧・謄写の請求を拒絶した場合、株主は会計帳簿の閲覧謄写請求訴訟を提起することが可能です。通常、拒絶事由の有無を巡って争われます。

参考裁判例

最判H21.1.15 客観的に競合関係にあれば、閲覧、謄写を拒絶できるとした判例

東京地判H19.9.20 将来競業をする蓋然性が高い場合にも、閲覧・謄写を拒絶できるとした裁判例

東京地判R3.12.16 株主の閲覧謄写請求の対象となった会計帳簿等の作成時には請求株主と請求を受けた会社において実質的な競争関係にある事業を営んでいなかった場合であっても、請求時点において実質的な競争関係が存在する場合には拒絶できるとした裁判例

⑷ 株主総会に関する権利

株主総会に関する権利として、株主総会で議決権を行使権(会社法105条1項3号、308条)や、株主総会での質問権(会社法314条)以外に、以下のようなものがあります。

株主総会での議案提案権、議案通知請求権303条2項、305条)。取締役会設置会社の場合、議決権の1%以上又は300個以上の議決権(公開会社では6か月前から引き続き保有)を有することが必要です。詳細は以下のリンク先の5(下のほうです)をご参照下さい。

株主総会招集請求権会社法297条

議決権の3%以上(定款で引下げることは可能です)の議決権を6箇月(定款で短縮可能です。また、閉鎖会社は保有期間要件はありません。)前から引き続き有する株主は、取締役に対し、株主総会の招集を請求することができます。

株主は、株主総会の目的である事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。)及び招集の理由を示す必要があります。

請求の後遅滞なく招集の手続が行われない場合や、請求があった日から8週間(定款で短縮可能です)以内の日を株主総会の日とする株主総会の招集の通知が発せられない場合、請求をした株主は、裁判所の許可を得て、自ら株主総会を招集することができます。
なお、8週間経過後に会社が株主総会招集通知を発送した事案につき「裁判所が同条1項による請求をした株主による株主総会の招集を許可したとしても、株式会社の招集する株主総会より前に株主総会を開催することができる見込みがないなどの特段の事情が認められるときは、株主総会の招集を求める申立ての利益は失われると解すべきで(ところ)・・・・本件には係る特段の事情が認められる。」として、少数株主による株主総会招集を許可しなかった裁判例があります(東京地決R2.11.2 東京高決R2.11.10で抗告棄却)。

株主総会検査役選任請求権306条

議決権の1%以上(定款で引下げ可能です)の議決権を有する株主(公開会社では6か月前から引き続き保有)は、株主総会に係る招集の手続及び決議の方法を調査させるため、当該株主総会に先立ち、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをすることができます。
検査役の権限及び職責は以下のとおりです。

項目  内容
権限株主総会に係る招集の手続及び決議の方法の調査
職責必要な調査を行い、当該調査の結果を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録を裁判所に提供し報告するとともに、申立権者に写しを交付又は提供しなければならなりません。

⑸ 取締役等の違法行為差止請求権(会社法360条、422条)

監査役設置会社及び委員会設置会社において、6ヵ月(定款で引き下げ可能)前から引き続き株式を有する株主は(閉鎖会社については保有期間の制限はありません)、取締役、執行役が会社の目的の範囲外の行為その他法令定款違反をし(これらの行為をするおそれがある場合を含む)、会社に回復することができない損害が生ずるおそれがあるときは、行為差止を請求することができます(360条、422条)。

上記以外の会社(監査役非設置会社など)において、6ヵ月(定款で引き下げ可能)前から引き続き株式を有する株主(閉鎖会社については保有期間の制限はありません)は、取締役が会社の目的の範囲外の行為その他法令定款違反をし(これらの行為をするおそれがある場合を含む)、会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、行為差止を請求することができる(360条1項)。

⑹ 検査役選任請求権(会社法358条

①総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の3%以上の議決権(定款で引下げることは可能です)を有する株主又は、②発行済株式(自己株式を除く。)の3%以上の数の株式(定款で引下げることは可能です)を有する株主は、会社の業務の執行に関し、不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由があるときは、検査役の選任を申立てて、検査役により会社の業務及び財産の状況を調査させることができます。

参考裁判例:最決H18.9.28 申立権者は検査役選任後も持株要件を維持する必要があるとした判例

検査役は会社及び子会社の業務及び財産の状況を調査し、調査結果を書面等で裁判所に報告し、会社及び申立株主に提供しなければなりません。なお、裁判所は、報告に基づき、必要があると認めるときは、取締役に対し、株主総会の招集等を命じなければならない(会社法359条)。

⑺ その他の権利

上記の他に、以下のような権利があります。

【経営の監督・是正関係】

内容(条文は会社法)         行使要件
取締役会招集権(367条1項 
株主代表訴訟提起権(847条~847条の3 公開会社であれば、行使前6か月前から株主であることが必要です。
募集株式等の発行差止請求権(210条、247条不利益を受ける株主のみが行使できます。
組織再編等差止請求権(171条の3、82条の3784条の2、796条の2、805条の2 不利益を受ける株主のみが行使できます。
役員解任の訴え提起権(854条議決権又は発行済株式の3%以上+公開会社であれば、行使前6か月前から株主であること
東京地判R3.4.22 関連会社に関する外国の刑事事件有罪判決が解任事由にならないとされた事例 
裁判例の詳細を見る
本件は、Y1の総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主であるXが、Yらに対し、Y2の取締役である被告Y1において、Y2の韓国の関連会社の業務執行に関し、韓国の刑法上の業務上背任罪及び賄賂供与罪に該当する行為をしたと認定した有罪判決を受け、これが確定したことから、Y2の取締役の職務の執行に関し不正の行為又は法令に違反する重大な事実があったにもかかわらず、被告Y1を取締役から解任する旨の議案が定時株主総会において否決されたと主張して、会社法854条1項1号に基づき、被告Y1の解任を請求した。本判決は以下のように説示して、請求を棄却した。
会社法は、〈1〉役員である取締役の欠格事由(同法331条1項)及び任期(同法332条)を法定した上で、〈2〉役員につき、株主総会の決議によって選任し(同法329条1項、341条)、いつでも株主総会の決議によって解任することができる(同法339条1項、341条)とする一方で、〈3〉役員の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実(以下「不正行為等」という。)があったにもかかわらず、当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたときは、所定の株主は、当該株主総会の日から30日以内に、訴えをもって当該役員の解任を請求することができる(同法854条)旨を規定している。また、株主総会等の決議については、決議の内容が法令に違反する場合には決議が無効であることの確認の訴え(同法830条2項)が、株主総会等の招集手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき等の所定の場合には決議の取消しの訴え(同法831条1項)が許容されている。このような会社法の規定に照らすと、同法は、一定の期間ごとの役員の選任及びその選任した役員の解任については、株主総会の多数決による適法な意思決定を尊重すべきものとし、役員に不正行為等があった場合に限り、裁判所が役員の解任に関する株主総会の多数決による適法な意思決定に介入することを認める趣旨であると解される。そうすると、役員の選任及び解任については、上記趣旨に反しない限り、株主の意思をできる限り尊重すべきものと考えられる。そして、役員の不正行為等が当該役員を選任する旨の株主総会の時点で判明していた場合(ただし、当該役員の不正行為等により会社法331条1項3号又は4号所定の取締役の欠格事由が認められるときを除く。以下同じ。)には、当該役員の不正行為等を踏まえてもなお当該役員を当該株式会社の役員に選任する旨の当該株主総会の多数決による適法な意思決定がされたというべきであり、その任期中に改めて当該不正行為等を理由に当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたときは、会社法854条を適用して株主が訴えをもって当該役員の解任請求をしたとしても、裁判所としては、上記趣旨に反しない限り、このような株主の意思を尊重し、役員の解任に関する株主総会の多数決による適法な意思決定に介入しないのが相当であると解される。・・・Xが、本件選任決議により開始された被告Y1の任期中に、被告Y1が韓国刑法上の業務上背任罪及び賄賂供与罪に該当する行為をした旨の本件有罪判決が確定したことについて会社法854条を適用して訴えをもって当該役員の解任請求をすることは、許されるというべきである。・・・」
役員等の責任免除に対する異議権(426条5項議決権の3%以上+公開会社であれば、行使前6か月前から株主であること

【書類の閲覧謄写請求権】

閲覧・謄写の対象(条文は会社法)主な要件(留意点)
株主総会議事録(318条
取締役会議事録(371条株主の権利行使するため必要があることが必要です。監査役設置会社、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社の場合、裁判所の許可が必要です
監査役会議事録(394条株主の権利行使に必要があること及び、裁判所の許可が必要です。
定款(31条)
全部取得条項付種類株式の取得対価等に関する書面等(171条の2)
株式等売渡請求に関する書面等(179条の5)
株式の併合に関する事項に関する書面等(182条の2)
合併契約等に関する書面等(782条、794条、803条815条)

【その他】

項目(条文は会社法)行使要件
組織行為無効の訴え提起権(828条)
解散請求権(833条1項)議決権又は発行済株式の10%以上
特別清算等申立権(511条1項)