このページは少数株主を増やさないようにするための方策を整理しています。

少数株主を整理することができればいいですが、それができないとしても少数株主を増やさないようにしておくことはできるかもしれません。そこで、主に中小企業を念頭に、少数株主を増やさないようにするための方策を整理しました。

少数株主を整理する方法については、以下のリンク先をご参照下さい。

1 はじめに

少数株主が増えるのは、株主に相続が発生する場合と、株主が自己の株式の一部を譲渡するケースが考えられます。

それぞれ、少数株主を増やさないようにする方策としては、以下のものが考えられます。

2 株式の譲渡を制限する方法

(全株を)譲渡制限株式にすることで、株式の拡散を防ぐことが可能となります。

但し、譲渡制限は、相続や合併には適用がありません。そこで、株式を相続した株主に対して会社が売渡を請求できるように、相続人等対する売渡請求権を定款で定めておくことを併用することが考えられます。

また、新たな株主を増やす場合(従業員などに株主になってもらう場合)は、例えば従業員であれば退職時に売却する義務を課したり(売却価格も決めておくことが通常です)、取得条項付種類株式にして、退職により会社が取得できるようにするなどの方法が考えられます。どのような種類株式が発行可能であるかについては、以下のリンク先をご参照下さい。

3 相続人に対する株式売渡請求制度を設定する

会社法には、相続人に対して会社が株式を売渡を請求できる制度を導入できる定めがあります(会社法174条~177条)。
制度の概要は以下のとおりです。なお、一般承継が発生した場合に売渡を請求できる制度ですが、ここでは相続に限定して説明をします。

⑴ 設定

設定は、定款で定めることが必要です(174条)。

定款変更は、株主総会の特別決議によります(466条、309条2項11号)。なお、対象にできるのは譲渡制限株式のみとなります。

⑵ 売渡請求の具体的な手続

株主に相続が発生する都度、株主総会の特別決議より、売渡請求をする株式の数と相手方を決定します。
なお、当該売渡を請求される株式については、議決権を行使できません(175条
  ↓
会社(代表取締役)は、相手方に対して、売渡請求をします(176条)(発行会社が相続の事実を知った日から1年以内
  ↓
会社と売渡請求を受けた者との間で譲渡金額の協議をします(177条1項
  ↓
価格の協議が整わない場合、会社又は相続人は価格決定の申立が可能(177条2項
(会社からの請求から20日以内に裁判所に対して価格決定の申立をしない場合でかつ売買価格が協議によって定まらない場合、売渡しの請求は効力を失います)

⑶ 留意点

対象会社にとっては、自己株式の取得となるので、財源規制(配当可能利益を超えて取得はできません)がかかります(461条1項5号、2項)。
財源規制については、以下のリンク先をご参照下さい。

請求を受ける者に例外を設けることはできません。よって、支配株主側の相続人が、請求を受ける可能性もあります
対応としては、以下のようなものが考えられます。
①支配株主が所有する株式以外は相続人に対する売渡請求の議案についての議決権制限種類株式としておくこと
②株主総会特別決議が必要ですので、支配株主側の相続人以外では定足数を満たさないようにしておくこと
③支配株主側の株式を同族会社に移転する(法人には相続が発生しないため)

なお、支払株主の相続人に対して売渡請求ができないと定款で定めることや、一定割合以上の株主の相続人に対しては売渡請求ができなとする定款の定めについては、無効とする考え方が有力であることから、リスクが高いと言えます。

⑷ 関連裁判例

東京地決H18.12.19 相続等の後に定款変更したうえで売渡請求することも可能とした裁判例

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株式の所有者であった甲は平成16年8月12日に死亡したところ、これは会社法の施行日(平成18年5月1日)の前であり、また、また、定款の変更は会社法施行後(平成18年5月26日)にされたことから、株式の相続に定款の定めの適用があるか否かが問題となりました。本決定は以下のように説示して、適用を認めました。
「会社法は、株式会社は相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を売り渡すことができる旨を定款で定めることができると定め(同法174条)、株式会社が、その株主総会において、同法175条1項の定める売渡しの請求の決定を決議したときは、売渡しを請求する株式を有する者に対し、当該株式の売渡しを請求しうると定めている(同法176条1項本文)。ただし、当該請求は、当該株式会社が「相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過したとき」はなしえない(同項ただし書)。・・・会社法174条は、定款の定めについて特に制限を加えていないから、当該定款の定めを置く前の相続であっても、株式会社が当該定款の定めを置いた時に、株式会社が「相続その他の一般承継があったことを知った日」から1年以内の相続人が存在すれば、当該定款の要件を充足しているといえるから、その者に対して売渡しの請求をすることができると解される。

東京高決H19.8.16 法176条1項ただし書にいう「相続その他の一般承継があったことを知った日」とは、「相続その他の一般承継そのものがあったことを知った日」と解すべきとした裁判例

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「本件の主たる争点は、法176条1項ただし書にいう「相続その他の一般承継があったことを知った日」が「相続その他の一般承継そのものがあったことを知った日」と解すべきか、あるいは「相続その他の一般承継によって相続人その他の一般承継人が相続その他の一般承継をしたことを知った日」と解すべきかにあり、・・・・当裁判所は、法176条1項ただし書にいう「相続その他の一般承継があったことを知った日」とは、字義どおり、「相続その他の一般承継そのものがあったことを知った日」と解するのが相当である」

4 従業員持株会を利用する方法

⑴ 概要

従業員持株会は、安定株主対策になるだけでなく、相続税対策や、取得する側の従業員のモチベーションのアップにも寄与するため、業績が好調であれば特に導入のメリットは大きいと言えます。
具体的な導入方法は、概要、以下のとおりとなります。なお、現経営者が従業員持株会に株式を放出する際には、現経営者に譲渡所得税が課税される可能性があります。

項目   内  容
議決権従業員持株会が保有する株式の議決権比率が高くなると、経営に支障をきたす可能性もあるので、留意が必要です。 議決権制限株式にすることも一つの方法です。
会員資格会社の従業員のうち、勤続年数が一定以上の者とすることが一般的です。
退職時の取扱い会社との合意書(又は持株会規約)で、当初の出資価額で会社(又は持株会)が買戻しができる権利を付与しておくが一般的です。なお、かかる合意の有効性が争われることがあるが、一定の配当があったことなどを理由に合意を有効であるとする裁判例が多いようです(最判H7.1.25他)。
但し、税務上は売戻条件契約で買戻価格が決められている場合でも、譲受人によっては時価と買戻価格の差額につきみなし贈与とされる可能性があるので注意が必要です(参考裁判例:仙台地判H3.11.12)。
なお、 取得条項付株式(会社法108条1項6号)にしておくことで、いつでも買い戻せるようにしておくことも考えられます。
奨励金の有無持株会に参加している場合に、会社から株式取得費用の一部を奨励金として補助をすることがあります。なお奨励金は給与の一部として課税されます。
その他募集売出しの価額等によっては有価証券通知書等の提出義務があります。

⑵ 参考裁判例

【出資額(額面価額)での買取合意を有効した裁判例】

最判H7.1.25 

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従業員持株制度を導入したY社は、甲社の従業員であったXらに対しY社の株式を額面額で取得させ、その際、X社との間で、退職に際しては、同制度に基づいて取得した株式を額面額で取締役会の指定する者に譲渡する旨の合意をしました。当該合意の有効性につきXらが争いましたが、本判決は以下のように説示して当該合意を有効としました。
本件合意は、商法204条1項に違反するものではなく、公序良俗にも反しないから有効であり、Y社の取締役会が、本件合意に基づく譲受人として甲を指定し、同人が買受けの意思を明らかにしたことにより、Xらは甲社の株式を喪失したとして、株券の発行を求めるXらの請求を棄却すべきものとした原審の判断は、正当として是認することができる。」

最判H21.2.17 

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日刊新聞の発行を目的とするY1社は、定款で譲渡制限株式にするとともに、日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社の株式の譲渡の制限等に関する法律1条に基づき,同社の株式譲受人は事業に関係のある者に限ると規定されていた。Y2は,Y1社の持株会であった。Y1社の従業員であったXらが、Yらに対しX1がX2からX1のY1株式を買い受けたとして、X1が株主であることの確認及びX1への名義書換等を求めたのに対し、Y2がX2に本件株式を売却した際に、X2が株式を売却する必要が生じたときなどにはY2が額面(1株100円)でこれを買い戻す株式譲渡ルールに従う旨の合意があったとして、Y2がXらに対しY2が株主であることの確認等を求めまし。本判決は以下のように説示して、Yらの主張を認めました。
「Y1社は、日刊新聞の発行を目的とする株式会社であって、定款で株式の譲渡制限を規定するとともに、日刊新聞法1条に基づき、日経株式の譲受人を同社の事業に関係ある者に限ると規定し、日経株式の保有資格を原則として現役の従業員等に限定する社員株主制度を採用しているものである。Y2における本件株式譲渡ルールは、Y1社が上記社員株主制度を維持することを前提に、これにより譲渡制限を受ける日経株式をY2を通じて円滑に現役の従業員等に承継させるため、株主が個人的理由により日経株式を売却する必要が生じたときなどにはY2が額面額でこれを買い戻すこととしたものであって、その内容に合理性がないとはいえない。また、Y1社は非公開会社であるから、もともと日経株式には市場性がなく、本件株式譲渡ルールは、株主である従業員等がY2に日経株式を譲渡する際の価格のみならず、従業員等がY2から日経株式を取得する際の価格も額面額とするものであったから、本件株式譲渡ルールに従い日経株式を取得しようとする者としては、将来の譲渡価格が取得価格を下回ることによる損失を被るおそれもない反面、およそ将来の譲渡益を期待し得る状況にもなかったということができる。そして、上告人X2は、上記のような本件株式譲渡ルールの内容を認識した上、自由意思によりY2から額面額で本件株式を買い受け、本件株式譲渡ルールに従う旨の本件合意をしたものであって、Y1社の従業員等が日経株式を取得することを事実上強制されていたというような事情はうかがわれない。さらに、Y1社が、多額の利益を計上しながら特段の事情もないのに一切配当を行うことなくこれをすべて会社内部に留保していたというような事情も見当たらない。
 以上によれば、本件株式譲渡ルールに従う旨の本件合意は、会社法107条及び127条の規定に反するものではなく、公序良俗にも反しないから有効というべきである。

仙台地判H3.11.12 従業員持株制度の運営としてされた退職従業員から会社役員への譲渡が、低額譲渡に当たるとした裁判例

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「Xは、同一会社の株式について、同族株主か否かにより異なる評価方法をとることは法の前の平等に反すると主張する。しかし、会社の支配的同族株主は、会社の意思決定を左右する力をもち、株主総会の決議においてその支配的決定権を行使することにより会社の利益処分額等を決定できる等の実権を握つているのであつて、同族株主か否かによつてその株式を所有することの経済的実益が異なつてくるのである(現にXは本件株式を被告主張のような評価額で甲に対し売却換金しているが、・・・によれば、それはXのような立場の者であつたからこそ可能であつたのであり、一従業員ではありえなかつたことであることが認められる。)から、株式の評価上同族株主か否かによつて異なる評価方法をとることは株式を所有することの経済的実益に応じた税負担を求めるものであり、なんら公平の原則に反するものではない。

【その他の裁判例】

東京地決H27.11.12 従業員持株会が解散する場面において、会社が主張する株式売買価格を認めた事例

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本件はY会社の従業員持株会Xが、授業員持株会解散にあたり、Y社に会員(従業員)への譲渡承認請求等をしたところ、譲渡を承認しない旨を通知するともに、Yが買い取る旨の通知をしたのに対し、Xが株式の売買価格の決定を申し立てた事案です。本決定は、以下のように説示して、Y社の主張通り(1株500円)に決定をしました。
「Xが本件株式を第三者あるいは会員に譲渡することは想定されておらず、本件のように、Xが解散するなどして、本件株式を保有することができなくなった場合には、Yが1株につき本件規約26条2項所定の配当還元方式又は額面に相当する額(500円)で本件株式を買い取る旨の黙示の合意があったと認めるのが相当である。そして、Xが本件株式をその会員に譲渡することについて、Yに対して譲渡承認請求をし、Yがこれを承認せず、Yにおいて本件株式を買い取る旨通知したことにより、XとYとの間に本件株式についての売買契約が成立したのと同様の法律関係が生ずることとなる本件において、申立てによりその売買価格の決定をするに当たっては、前記合意に基づく価格を本件株式の売買価格とするのが相当である。このように解しても、前記事情によれば、前記合意がX又はその会員の投下資本の回収を著しく制限する不合理なものとまでは認められない。(なお、このように解さずに、Xが任意の時期に解散し、清算手続において、Xの保有していた本件株式を客観的価格で売却し、解散時の会員がその分配を受けることができるとすれば、Xの会員であるYの従業員の福利厚生を目的とするXの設立趣旨に反する結果になるといわざるを得ない。)
 仮に、前記合意が認められないとしても、株式を保有していた従業員持株会が解散し、従業員持株会がその会員への株式譲渡につき、譲渡承認請求し、会社がこれを承認せず、会社において株式を買い取る旨通知したことにより、従業員持株会と会社との間で株式の売買契約が成立したのと同様の法律関係が生ずることとなるといった本件において、本件株式の売買価格の決定に当たって前記の事情を考慮し、売買価格を1株につき500円とすることも合理的裁量の範囲内のものとして許されると解される。」