このページは、株主総会の招集、運営(進行)、事後処理、株主総会決議の争い方について説明しています。
株主総会は、会社運営の基本です。株主総会について、時系列に沿って、招集→当日の運営(進行)→決議→事後処理の順番で説明をします。株主総会決議の争い方などについても触れています。
なお、公開会社とは、一部でも譲渡制限のない株式を発行している会社を、非公開会社又は閉鎖会社とは全発行株式が譲渡制限株式である会社を指します。譲渡制限株式とは、株式譲渡を行う場合、株主総会決議又は取締役会決議が必要な株式をいいます。
1 株主総会の招集
⑴ 一般的な流れ
株主総会招集までの一般的な流れは以下のとおりです。なお、招集手続に瑕疵があったとしても、株主全員が株主総会の開催に同意して出席した場合、株主総会における決議は適法に成立するとされています(最判S60.12.20)。また、一人株主の場合は招集手続がなくとも有効に株主総会が成立するとした判例もあります(最判S46.6.24)。
対応事項(時系列) | 時 期 | 備考 |
---|---|---|
基準日公告 | 基準日の2週間前まで | 基準日を定めて、基準日において株主名簿に記載され、又は記録されている株主をその権利を行使することができる者と定めることができますI(会社法124条)。株式の変動が少ない閉鎖会社では、基準日を定める必要性はほとんどありません。 |
基準日 | 総会日前3か月以内 | 特段行うべき事項はない。 |
決算日 | 定時株主総会 | |
株主提案権の行使 | 総会日の8週間前(取締役会設置会社の場合) | 会社法303条。株主の権利であって、会社側から行うべき事項はない。 |
監査役から計算書類・事業報告監査報告受領(監査役設置会社) | 計算書類を受領した日から4週間以内 | 会社法435条2項、436条2項 |
計算書類・事業報告書の取締役会による承認(取締役会設置会社) | ||
取締役(会)による株主総会招集決議 | 会社法298条。なお、株主の数が1000人を超える場合には、原則として書面投票を定めなければなりません(会社法298条2項、3項) | |
招集通知の発送 | 総会の2週間前まで。閉鎖会社は1週間前まで。 | 株主の全員の同意があるときは、書面や電磁的方法による議決権行使を認める場合を除き、招集手続を経ることなく株主総会を開催することができます(会社法300条)。 |
なお、このページでは少数株主による株主総会招集については触れていません。少数株主による株主総会の招集については、以下の株主の権利に関して説明した以下のリンク先の2の⑷をご参照下さい。
また、少数株主の議題提案権と議案提案権については、以下のリンク先で説明しています。
⑵ 基準日制度(会社法124条)とは?
基準日制度とは、基準日を定めて、基準日において株主名簿に記載、記録されている株主・登録株式質権者を権利を行使することができる者と定めることができる制度です(会社法124条1項、5項)。 なお、会社は、基準日後に株式を取得した者の全部又は一部につき、基準日株主の権利を害さない範囲で、株主総会又は種類株主総会における議決権行使を認めることができます(会社法124条4項)。
基準日は権利行使日から3ヵ月以内に限られています(会社法124条2項)。
会社は、基準日を定めた場合、定款に基準日等の定めがあるときを除き、基準日の2週間前までに、基準日等を公告しなければなりません(会社法124条3項)。
⑶ 招集権者
株主総会の招集権者は以下のとおりです。
取締役会設置会社:取締役会決議に基づき、(代表)取締役が招集します(会社法298条1項、4項、296条3項)
取締役会を設置していない会社:取締役の多数決で決定し、取締役が招集します
参考裁判例:
最判S45.8.20 招集権限を有しない取締役による招集は、株主総会決議不存在になるとした判例
最判S46.3.18 招集権限を有する代表取締役が取締役会決議なく株主総会を招集した場合は、不存在ではなく決議取消事由(会社法831条)となるとした判例
⑷ 株主総会の招集通知
取締役会を設置していない会社で書面や電磁的方法による議決権行使(投票)を認める旨を定めない場合には、招集通知は書面で行う必要はないが、それ以外の場合は、書面で株主総会招集通知を送る必要があります(会社法299条)。なお、書面による通知の発出に代えて、政令で定めるところにより、株主の承諾を得て、電磁的方法により通知を発することもできます。
一部の株主への通知漏れなどは、株主総会決議取消事由となります(最判S42.9.28)。
招集通知には以下の事項を記載しなければなりません(会社法299条)
① 株主総会の日時及び場所
② 株主総会の目的事項
③ 株主総会に出席しない株主が書面又は電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
④ 前各号に掲げるもののほか、会社法施行規則で定める事項
書面又は電磁的方法で投票をする場合は、株主総会参考書類及び議決権行使書面を提供等しなければなりません(会社法301条、302条、施行規則65条、66条、73~94条)。
また、定時株主総会の招集通知には、計算書類(貸借対照表、損益計算書など)及び事業報告(監査報告又は会計監査報告がある場合はそれらを含む。)を添付して株主に提供しなければなりません(会社法437条)。
⑸ 委任状の勧誘
招集通知に委任状を同封して、委任状を提出するように求めるが一般的です。これは、事前に賛成票を確保するためです。
⑹ 仮処分
株主は、株主総会の決議の瑕疵が予想されるなど、保全の必要性などが認められる場合、株主総会開催前に、株主総会開催禁止の仮処分、株主総会決議禁止の仮処分を申し立てることが可能です。また、株主でない者の議決権行使が予想される場合、議決権行使禁止の仮処分も考えられます。
2 株主総会の運営(進行)
⑴ 受付(出席株主の確認など)
本人確認
招集通知に同封した書面による議決権行使書面の提出を求めるなどして株主かどうかを確認します。
代理人の出席(代理人の議決権行使)
代理人の出席も可能です(会社法310条1項)。当該株主又は代理人は、代理権を証明する書面を株式会社に提出しなければならない(電磁的方法での提出も可能)(会社法310条1項、3項)とされていますので、受付で確認します。
なお、法人株主が事前に委任状・議決権行使書を提出していたとしても、当該法人の代表者が株主総会に出席した場合は事前の議決行使は無効となると解されますので(大阪高決R3.12.7)、注意が必要です。
⑵ 定款で代理人の資格を株主に限定した場合の運営
定款で、代理人の資格を株主に限定することが多く行われているが、適法とされています(最判S43.11.1)。この場合は、受付で代理人が株主か否かの確認も必要になります。
ただし、代理人の資格を株主に限定する旨が定款で定められている場合でも、当該会社の株主である県、市、株式会社がその職員又は従業員を代理人として株主総会に出席させた上、議決権を行使させても、定款の規定に反しないとされています(最判S51.12.24)。これは一定の場合に議決行使を認めることができるとするもので、総会出席及び議決権行使を認めなければならないというものではありません。
もっとも、定款で議決権行使の代理人の資格を株主に限定している場合であっても、株主である会社が従業員を代理人として総会に出席させようとするときは、それによって総会が攪乱され会社の利益が害されるおそれがあるなどの特段の事情がない限り、従業員の出席を拒むことはできないとした裁判例もあるので留意が必要です(東京地判S61.3.31 控訴されたが棄却)。
最判S51.12.24
東京地判S61.3.31 会社株主の従業員の出席及び議決権行使を拒否することが株主総会取消事由になるとした裁判例
さらに、定款で代理人の資格を株主に限定している場合、代理人たる弁護士の出席を拒否できるかどうかも問題となりますが、今のところ定説はありません。代理人の出席により株主総会が攪乱されるおそればあるかどうか、代理人による出席を認めないと議決権行使ができない事情があるかどうかなどが判断要素となっているようです。
拒否を違法とする裁判例(札幌高判R1.7.12、神戸地尼崎支判H12.3.28、東京地判R3.11.25)と、拒否を違反としない裁判例(東京高判H22.11.24、東京地判H27.10.19、名古屋地判H28.9.30)に分かれています。
⑵ 議事進行
議事は概要以下のように進行します。
時系列での進行 | 一般的な発言者 | 備考 |
---|---|---|
開会・議長就任 | 議長:議長は代表取締役であることが一般的です | 定款で、代表取締役が総会の議長に就任する旨が定められていることが多いです。 定款に定めがない場合は、総会で選任されます。 |
出席株式数の確認など | 代表取締役又は事務局 | 議決権数、出席株式の議決権数の報告。また、定足を満たしており、総会が有効に成立した旨の報告 |
監査役の監査報告 | 監査役 | 定時株主総会で、監査役がいる場合 |
事業報告の説明 | 議長 | 事業報告の説明後に、事業報告に関する質疑応答をすることもあります。 |
議案の説明 | 議長 | 株主は、総会の場で議案を提出することが可能です(動議 会社法304条)。ただし、取締役会設置会社においては、株主総会は、会議の目的事項以外の事項については、決議をすることができません(会社法309条5項)ので、動議も目的事項の範囲ということになります。取締役会を設置していない会社は、このような制限はありません。 実質的動議は原則として、審理に付す必要があります(5の⑵参照)。手続的動議の取扱は議長の合理的な裁量に委ねられます。 |
議案の審議 | 株主/議長 | 株主からの質問内容によっては、議長以外の取締役等が回答することもあります。 当該事項が株主総会の目的である事項に関しないものである場合、その説明をすることにより株主の共同の利益を著しく害する場合その他正当な理由がある場合として会社法施行規則で定める場合を除き、取締役、会計参与、監査役及び執行役には、株主総会における説明義務があります(会社法314条)。→⑷参照 |
採決 | 株主 | 採決の方法は、定めはありません。事前の投票結果などから、賛成多数であることが確定している場合は拍手等で対応することもよくあります。 参考裁判例:最判S42.7.25 大阪地判H16.2.4 |
閉会 | 議長 | 閉会後に、新任の取締役が挨拶することなどもあります。 |
参考裁判例
最判H8.11.12 従業員株主を一般株主により先に入場させ、前列に座らせることは適切でないとした判例。
⑶ 議長の権限
株主総会の議長は、当該株主総会の秩序を維持し、議事を整理する権限を有し義務を負います。議長は、命令に従わない者その他当該株主総会の秩序を乱す者を退場させることができます。(会社法315条)
⑷ 取締役等の説明義務(会社法314条)
取締役、会計参与、監査役及び執行役は、原則として、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければなりません。
説明を拒めるのは、以下の場合になります。
①当該事項が株主総会の目的である事項に関しないものである場合
②その説明をすることにより株主の共同の利益を著しく害する場合
③その他正当な理由がある場合として法務省令で定める場合(施行規則71条)
参考裁判例:東京高判S61.2.19、東京地判H16.5.13、東京地判H16.5.13
3 株主総会の決議
株主総会の決議には、普通決議、特別決議、特殊決議があります。決議の具体的な方法として、挙手、拍手、その他いかなる方法を採用するかは、議長の合理的な裁量にゆだねられると解されます(東京地判H14.2.21)。なお、決議要件は定款で加重することが可能です(会社法309条1項)。例えば、定款で出席株主全員の同意とすることも、原則として可能と解されます(東京高判R3.4.22)。
東京高判R3.4.22 定款で出席株主全員の同意を総会決議要件とすることも、原則として有効とした裁判例
東京高判R4.10.31 株主総会の決議につき定足数に頭数要件を定款で定めたとしても、役員の選解任に係る株主総会決議には適用されないとした裁判例
⑴ 普通決議(会社法309条1項)
定足数:議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主の出席
(決議対象によって、定款で要件緩和・要件排除可能)
決議要件:出席した当該株主の議決権の過半数
対象:特別決議、特殊決議が必要される以外の事項。
決算書類の承認(会社法438条2項)、剰余金の配当に関する事項の決定(会社法454条)、役員及び会計監査人選任(会社法329条)、取締役の報酬決定(会社法361条)などがあります。
⑵ 特別決議(会社法309条2項)
定足数:議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主の出席
(定款で3分の1まで要件緩和可能)
決議要件:出席した当該株主の議決権の3分の2(定款で要件引上げ可能)
対象:会社法309条2項列挙事由
⑶ 特殊決議(会社法309条3項)
定足数:なし。
決議要件:議決権を行使することができる株主の半数以上(定款で要件引上げ可能)であって、議決権の3分の2(定款で要件引上げ可能)
対象:会社法309条3項列挙事由
さらに、閉鎖会社は、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができる旨の定款変更を行う株主総会の決議は、総株主の半数以上(定款で要件引上げ可能)であって、総株主の議決権の4分の3(定款で要件引上げ可能)以上の賛成が必要です。
⑷ 株主の議決権行使について
原則として、株式1株につき1個の議決権を有しています。ただし、単元株式数を定款で定めている場合には、一単元の株式につき1個の議決権を有しています。株主は、総会に出席して自ら行使するのが原則ですが、上記2⑴にあるよように代理人が行使することも可能です。。
なお、書面による議決権行使(298条1項3号、311条、施行規則69条)、電磁的方法による議決権行使(298条1項4号、312条、施行規則70条、226条、230条)が認められることもあります。
以下のものは議決権が認められません。
①議決権制限株式(108条1項3号、2項3号)
②単元未満株式(189条1項)
③株式会社がその総株主の議決権の4分の1以上を有することその他の事由を通じて株式会社がその経営を実質的に支配することが可能な関係にあるものとして法務省令で定める株主の議決権(308条1項、施行規則67条)
④自己株式(308条2項)
⑤自己株式の取得承認決議における、売主となる株主の議決権(140条3項、160条4項)
なお、株主は、その有する議決権を統一しないで行使することができます。取締役会設置会社において、株主が議決権の不統一行使をする場合、株主総会の日の3日前までに、会社に対してその有する議決権を統一しないで行使する旨及びその理由を通知しなければなりません。なお会社は、株主が他人のために株式を有する者でないときは、議決権の不統一行使を拒むことができます。(会社法313条)
4 株主総会の事後処理(議事録など)
⑴ 株主総会議事録について(会社法318条)
会社は、株主総会終了後、株主総会の議事録を作成しなければなりません。
作成した議事録は、株主総会の日から10年間本店に、5年間議事録の写しを支店に備え置かなければなりません。株主及び債権者は、会社の営業時間内は、いつでも、書面又は電磁的記録の閲覧又は謄写を請求できます。(会社法318条)
⑵ その他
会社は、株主総会の日から3箇月間、株主から提出された議決権行使書又は委任状をその本店に備え置かなければなりません(会社法310条6項)。株主は、株式会社の営業時間内は、いつでも、当該請求の理由を明らかにしてして、これらの書面の閲覧又は謄写の請求をすることができます。
登記事項に変更があった場合、登記をする必要があります(会社法915条)。
5 書面による株主総会決議について(会社法319条、320条)
全株主の同意があった場合、株主総会を開催せず、書面上行う方法もあります(会社法319条、320条)。
⑴ 成立要件等
取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされます(会社法319条1項)
取締役が株主の全員に対して株主総会に報告すべき事項を通知した場合において、当該事項を株主総会に報告することを要しないことにつき株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該事項の株主総会への報告があったものとみなされます(会社法320条)。
⑵ 総会終了後の手続
株主総会議事録を作成して、10年間本店に備え置く必要があります(会社法318条1項、2項)。株主の同意書面又は電磁的記録も、10年間、本店に備え置く必要があります(会社法319条2項)。
6 株主総会にかかる紛争
株主総会決議の争い方については、以下の方法が考えられます。
⑴ 決議取消の訴え(会社法831条、828条)
以下の事由がある場合に決議取消の訴え提起が可能です。
①株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき(参考裁判例:東京地判H17.7.7、東京地判H22.9.6)
②株主総会等の決議の内容が定款に違反するとき
③株主総会等の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき(参考裁判例:浦和地判H12.8.18)。
提訴権者:株主・取締役・執行役・監査役・清算人(参考裁判例:最判S42.9.28、東京高判H22.7.7、最判S45.4.2、最判H4.10.29)。
被告:会社(会社法834条)
提訴可能期間:決議の日から3か月以内(最判S51.12.24、最判S54.11.16)
判決の効力は第三者にも及びます(会社法838条)。なお、株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反するとき(①の前半の場合)であっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、請求を棄却することができます(会社法831条2項)。(参考裁判例:最判H7.3.9、最判H5.9.9、最判S46.3.18)
⑵ 決議無効確認の訴え(会社法830条2項)
決議の内容が法令に違反することを理由として、決議が無効であることの確認の訴えをすることが可能です。
提訴権者:特に制限はありません(確認の利益があることが前提になります)
被告:会社(会社法834条)
提訴可能期間:特に制限ありません
判決の効力は第三者にも及びます(会社法838条)。
⑶ 決議不存在確認の訴え(会社法830条1項)
決議が存在しないことの確認を、訴えをもって請求することができます。株主に対する招集通知がされていない場合などが、これに該当します(大阪地判H3.2.20など)。
提訴権者:特に制限はありません(確認の利益があることが前提になります)
被告:会社(会社法834条)
提訴可能期間:特に制限ありません
判決の効力は第三者にも及びます(会社法838条)。