このページでは、役員退職金支給手続について整理しています。会社法上の規制と、税務上の規制の両方に注意する必要があります。
会社法上の規制として、役員退職金を支給するためには、原則として、定款又は株主総会決議によって金額を定める必要があります(会社法361条、387条)。但し、例外があり、実務は例外で運用されています。
1 役員退職金支給手続の会社法上の規制
⑴ 原則
役員退職金を支給するためには、定款又は株主総会決議によって金額を定める必要があります(会社法361条、387条)。ただし、例外的に、株主総会決議がない場合において、役員の退職慰労金請求権を認めたケースもあり、注意が必要です(福岡高判R4.12.27)。なお、いったん報酬額が確定した場合、当該取締役の同意がなければ、株主総会決議によっても減額はできないとされています(最判H4.12.18)。
参考裁判例
千葉地判H1.6.30 株主総会決議はないものの、総株主の同意があったとして役員退職慰労金の請求を認めた裁判利絵
最判21.12.18 株主総会決議が存在しないまま支給された退職慰労金について、当該金員の返還を請求することは信義則に反し権利の濫用に当たるとした事例
福岡高判R4.12.27 株主総会決議が無い場合であっても、会社との間に退職慰労金の支払について黙示の合意が認められる場合、会社に支払義務が発生するとした裁判例
佐賀地判H23.1.20 過半数を超える支配的な株主として支給決議を実質的に決定することができる立場にあった者が、退職慰労金を支給する旨を説明したにもかかわらず、故意又は過失によって、過半数を超える支配的な立場を利用して、特段の事情なく不支給決議を主導した場合、不法行為責任を負うものとした裁判例
⑴ 例外その1(役員退職金規程+取締役会への一任)
役員退職金規程があり、それを株主が容易に知ることができれのであれば、株主総会で具体的な支給額を決定せず、取締役会に一任することも許されるとされています(最判S39.12.11、最判S58.2.22)。
この場合、実務的には、役員退職金規程を制定したうえで、株主総会前に本社等で株主の閲覧に供するなどの措置が取られます。
役員退職金規程があっても、株主総会又は株主総会の決議に代わる全株主の同意が認められ無い限り、役員退職金の請求権は発生しないと解されています(最判S56.5.11、最判H15.2.11、大阪高判H16.2.12)。
また、一任を受けた取締役会で決議されない限り、役員退職金の具体的な請求権は発生しないと解されています(東京高判H12.6.21)。
なお、役員退職金規程があっても、役員退職金規程の内容と異なる支給額を、株主総会決議で決定することは可能と解されています(東京地判S62.3.26)。
なお、株主総会から取締役会への委任の範囲が問題となることがあります。委任の範囲を超えた減額は許されないと解されています(福岡高宮崎支判R4.7.6)。
福岡高宮崎支判R4.7.6 取締役会における退職金の減額が違法とされた事例
⑵ 例外その2(取締役会から代表取締役への一任)
さらに適法に一任を受けた取締役会が代表取締役に再一任することも可能とされています(最判S58.2.22)。
ただし、退職金規程は「単に支給しうる額の上限を定めるのみでは足りず、一義的に定まるものか、又は、裁量の幅が相当狭いものでなければなら」ず、規程が広範な裁量を認めていて、代表取締役が「裁量権を逸脱ないし濫用して不当に低額の退職慰労金を決定した場合には、その決定は違法であり、株主総会決議に基づき適正な内規に従った支給を受けるべき権利を有する退任取締役に対する不法行為を構成する」という裁判例があります(名古屋地判H14.1.17)。
2 税務上の規制 退職の事実及び支給額の適正性が問題となります!
⑴ 退職の事実が争われる場合があります
退職金を損金算入するためには、原則として会社を実際に退職することが必要であるとされています。
しかしながら、特に中小企業の場合は、退職金を受領した後も、現経営者が会社に一定の関与を継続することが多いです。この場合分掌変更(役割変更)に伴い、実質的に退職したと同様の事情にあると認められれば、税務上、退職金として扱われることになりますが(法人税基本通達9-2-32)、どの程度の関与であれば損金算入が可能となるかは、必ずしも明確ではありません。
裁判例も多いところです。以下のリンク先にまとめてありますので、ご参照下さい。
⑵ 退職金支給額について争われる場合があります
法人税法や基本通達から、適正支給額は明確とは言えませんが、一般的に、(平均)功績倍率法という計算方法が税務上妥当とされています(東京高判H25.7.18)。
裁判例も多数あります。以下のリンク先にまとめてありますので、ご参照下さい。