このページでは、株主名簿について説明しています。株式譲渡があった場合の手続や、名簿に記載された場合の効力についても整理しています。
なお、中小企業を念頭に置いていますので、上場関係の規制には触れていません。また振替株式についても触れていません。
以下で公開会社とは、一部でも譲渡制限のない株式を発行している会社を、非公開会社又は閉鎖会社とは全発行株式が譲渡制限株式である会社を指します。譲渡制限株式とは、株式譲渡を行う場合、株主総会決議又は取締役会決議が必要な株式をいいます。
1 株主名簿の作成、備置などについて
会社は、株主名簿を作成し、株主の氏名、住所等を記載又は記録しなければなりません(会社法121条)。なお、定款で株主名簿管理人を置く旨を定めることで、会社は株主名簿の管理を第三者に委託することができます(会社法123条)。
会社は、株主名簿を本店(株主名簿管理人がある場合は、その営業所)に備え置かなければなりません(会社法125条1項)。
株主及び債権者は、請求の理由を明らかにして、会社の営業時間内いつでも、閲覧、謄写の請求ができます(会社法125条2項、会社法施行規則226条)。親会社社員も、その権利を行使するため必要があるときは、請求の理由を明らかにして、かつ裁判所の許可を得て、会社の株主名簿について閲覧、謄写の請求をすることができます(125条4項)
会社は、請求者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で閲覧謄写請求を行ったときなど、会社法125条3項各号に該当する場合、閲覧、謄写を拒絶できます(参考裁判例:東京高決H20.6.12)。
2 株式譲渡の場合の手続
株券不発行会社は、株式取得者は、原則として、株主名簿上の名義人又はその一般承継人と共同して、会社に対し株主名簿名義書換の請求をしなければなりません(会社法133条 会社法施行規則22条)。
株券発行会社は、株券を提示して、株式取得者単独で株主名簿名義書換の請求をすることが可能です(会社法133条 会社法施行規則22条)。
なお、譲渡制限株式は、譲渡承認等がされていない限り、株式取得者は名義書換え請求はできません(会社法134条)(参考裁判例:最判S63.3.15)。
最判S63.3.15 譲渡制限株式の承認がされていない場合、会社は譲渡人を株主として扱わなければならないとした判例
3 株主名義名義書換の効力:対抗要件としての効力があります!
株券不発行会社の株式の譲渡は、株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載又は記録しなければ、会社その他の第三者に対抗することができません(会社法130条1項)。
株券発行会社の株式の譲渡は、株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載又は記録しなければ、会社に対抗することができません(会社法130条2項)。
参考裁判例:
最判S30.10.20 会社が名義書換未了の者を株主として扱うことは可能とした判例
最判S41.7.28 会社が株主名義書換を不当に拒絶した場合は、株式の譲渡を名義書換なく会社に対抗できるとした判例
東京高判S63.6.28 架空名義・他人名義による名義書換では、会社に株主であることを対抗できないとした裁判例
最判S47.11.8 会社が不当に株券発行を遅滞する場合、株主は意思表示のみで会社に対する関係でも有効に株式譲渡ができるとした判例
4 補足(免責的効力)
会社が株主に対してする通知又は催告は、株主名簿に記載又は記録した当該株主の住所(当該株主が別に通知又は催告を受ける場所又は連絡先を当該株式会社に通知した場合にあっては、その場所又は連絡先)にあてて発すれば、仮に実際には到達しなくても、通知又は催告は到達したものとみなされます(会社法126条1項、2項。免責的効力といいます。)。
そして、会社が株主に対してする通知又は催告が5年以上継続して到達しない場合には、会社は、当該株主に対する通知又は催告をすることを要しないとされています(会社法196条1項)。
会社は、株主名簿の記載に基づいて名義株主(株主名簿上の株主)に権利の行使を認めれば、その者が真の株主でなかったとしても免責されるが、名義株主が無権利者であることについて悪意又は重過失がある場合には、免責されないものと解されています(東京地判R3.12.20)。
東京地判R3.12.20