このページは株式買取請求権(価格決定)について説明しています。

なお、本サイトは中小企業を念頭においていますので、振替株式特有の問題点などについては触れていません。ご留意ください。

以下で公開会社とは、一部でも譲渡制限のない株式を発行している会社を、非公開会社又は閉鎖会社とは全発行株式が譲渡制限株式である会社を指します。譲渡制限株式とは、株式譲渡を行う場合、株主総会決議又は取締役会決議が必要な株式をいいます。

1 株式買取請求権が発生する場合とは

一定の組織再編や定款変更など、会社の根幹にかかわる変更が発生する場合、株主に買取請求権が発生します。概要以下のように整理できます。

⑴ 組織再編に伴う株式買取請求

事業譲渡、会社分割、合併などについて、反対する株主に買取請求権が認められています(会社法469条1項、785条1項など)。

例えば、事業譲渡は株主総会の特別決議によって行われますが、多数決で決せられるため、少数株主の利益が害されるおそれがあります。そこで,少数株主には,反対株主の株式買取請求権が与えられています。
例えば事業譲渡で少数株主に買取請求権が与えられる場合をまとめると以下のとおりです。

    譲渡対象       買取請求の条文     備考
譲渡会社全部又は重要な一部有り(469条1項)事業の全部を譲渡する事業譲渡を承認する決議と、同時に解散決議を行った場合は認められません
譲受会社譲渡会社の事業全部有り(469条1項) 

⑵ 一定の定款変更に伴う株式買取請求(会社法116条)

以下のような定款変更を行う場合に、対象となる株式(全株式を対象としている場合は全株式)に株式買取請求権がみとめられてます。

①全部の株式を譲渡制限株式とする旨の定款変更(会社法116条1項1号
②全部取得条項付種類株式発行のための定款変更(会社法116条1項2号
③ある種類株式を譲渡制限株式する旨の定款変更(会社法116条1項2号

⑶ 単元未満株式(会社法192条)

単元未満株主は、会社に対し、自己の有する単元未満株式を買い取ることを請求することができます。

⑷ その他

ある種類株式の株主にを有する種類株主に損害を及ぼすおそれがある一定の行為で、定款で種類株主総会の決議が排除されている場合、損害を受ける可能性のある種類株主は買取請求権を行使できます(116条1項3号、322条2項)。

2 株式買取請求権の手続

⑴ 概要

買取請求の手続は各場合で、やや異なります。株主総会で反対をすることが必要なケースとそうでないケースがあります。買取請求をする場合、効力発生日の20日前から効力発生日の前日までの間に、買取請求に係る株式の種類や数を明らかにする必要があることが一般的です。

⑵でサンプルとして事業譲渡の場合について手続を説明致しますが、他の場合について個別に手続の詳細を記載することはしません。
それぞれの手続にあわせて、特に期間に注意をして会社側も買取請求する側も対応する必要があります。

⑵ 事業譲渡の場合

例として、事業譲渡の場合の買取請求の手続きは概要以下のとおりとなります。

時系列条文(会社法)    
株主が事業譲渡承認の株主総会に先立って会社に対して書面にて反対の意思表示を行う。
株主総会において議決権を行使することができない株主(無議決権株主、単元未満株主など)は、全員が株式買取請求権を行使することが可能です(469条2項1号ロ)。
469条2項1号イ
株主が総会に出席して,決議の際に反対の意思表示を行う。469条2項1号イ
会社は,事業譲渡の効力発生日の20日前までに,株主に,事業譲渡を行う旨の通知又は公告469条3項,4項
効力発生の20日前から前日までの間に,株主から会社に対して反対株主の買取請求469条5項
会社と株主との間で価格協議 ⇒協議成立の場合は効力発生から60日以内に支払います(株券発行会社の場合は、株券と引換え)。470条1項
効力発生から30日以内に協議が整わなかった場合,株主又は会社は,その期間満了後30日以内に,裁判所に対し価格決定の申立てが可能。470条2項
⇒買取価格確定後に、会社は自己株式の買取り 裁判所が決定した価格には、事業譲渡の効力発生日から60日の期間が満了した後の期間について、法定利率の利息が発生します。従って、利息の発生を避けるため弁済供託をする場合もあります。
株券発行会社の場合、株券と引き換えに代金を支払うことになるため、株券の引渡しを受けるまでは利息を支払う必要はありません。
協議が整った場合の遅延利息の発生時期については、争いがあります。
470条4項

⑶ 買取請求権を行使した後、「債権者」として権利行使可能か

株主は買取請求権を行使する債権者となります。会社法は、株主のみならず債権者についても、株主名簿、株主総会議事録、取締役会議事録、会計帳簿、計算書類等の閲覧等の請求権を認めています(会社法125条2項・3項、371条2項~4項など)。株式買取請求権を行使された会社は、自らが公正な価格と認める金額を株主に支払うことができますが(会社法182条の2第5項など)、これらを支払った後でも価格決定中であれば、株主は債権者としての権利行使を妨げられないとされません(最判R3.7.5)

最判R3.7.5 株式の買取請求をした者は、会社法182条の5第5項に基づく支払を受けた場合であっても、買取価格につき会社との協議が整うか、又はその決定に係る裁判が確定するまでは、債権者として権利行使ができるとした判例

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Yの株主Xが、株主総会に先立ち決議に係る議案に反対する旨をYに通知した上で、株主総会において議案に反対し、会社法182条の4第1項に基づき、株式を公正な価格で買い取ることを請求しました。株式の価格の決定について協議が調わなかったことから、Xが価格の決定の申立てをしました、Xが価格決定の係属中に、Yに対し債権者として、会社法318条4項に基づき、株主総会議事録の閲覧及び謄写を求めたのが本件です。YはXが、会社法182条の5第5項に基づく支払を受けているから、株式の価格がこの支払の額を上回らない限り、債権者には当たらないと主張しましたが、本判決は以下のように説示して、Xの請求を認めました。
「会社法318条4項は、株式会社の株主及び債権者は株主総会議事録の閲覧等を請求できる旨を定めている。そして、同法182条の4第2項各号に掲げる株主(反対株主)は、株式併合により1株に満たない端数となる株式につき、同条1項に基づく買取請求をした場合、会社との間で法律上当然に売買契約が成立したのと同様の法律関係が生ずることにより上記株式につき公正な価格の支払を求めることのできる権利を取得し(最高裁平成22年(許)第30号同23年4月19日第三小法廷決定・民集65巻3号1311頁参照)、同法318条4項にいう債権者に当たることとなると解される。・・・協議が調い又は上記裁判が確定するまでは、この価格は未形成というほかなく、上記の支払によって上記価格の支払請求権が全て消滅したということはできない。また、同法318条4項の趣旨は、株主及び債権者において、権利を適切に行使し、その利益を確保するために会社の業務ないし財産の状況等に関する情報を入手することを可能とし、もってその保護を図ることにあると解される。そして、上記買取請求をした者は、会社から上記支払を受けたとしても、少なくとも上記株式の価格につき上記協議が調い又は上記裁判が確定するまでは、株式併合により端数となる株式につき適切な対価の交付を確保するため会社の業務ないし財産の状況等を踏まえた合理的な検討を行う必要がある点においては上記支払前と変わるところがなく、上記情報の入手の必要性は失われないというべきである。したがって、同法182条の4第1項に基づき株式の買取請求をした者は、同法182条の5第5項に基づく支払を受けた場合であっても、上記株式の価格につき会社との協議が調い又はその決定に係る裁判が確定するまでは、同法318条4項にいう債権者に当たるというべきである。」

3 買取請求以外で株式価格決定が必要となる場合

買取請求権行使の結果ではなく、株式の価格決定が必要となる場合としては以下のものあります。
譲渡制限株式の譲渡請求を不承認した場合(会社法144条)
②全部取得条項付種類株式が取得される場合会社法172条
③特別支配株主の株式売渡請求制度で売渡を強制される場合会社法179条~179条の10

⑴ 譲渡制限株式の譲渡請求を不承認した場合(会社法144条)

譲渡制限株式の譲渡請求に対して、譲渡不承認の場合、会社は、対象株式を自ら買い取るか、指定買取人を指定しなければなりません(会社法140条)。

この場合指定買取人による買取る場合は不承認通知の日から10日以内(定款で引下げることは可能です)に指定買取人が自らが買取る旨の通知を、会社が買取る場合は不承認通知の日から40日(定款で引下げることは可能です)以内に会社が買取る旨の通知をしなければなりません。

この場合の譲渡価格は、原則は当事者の協議ですが、買取通知の日から20日以内に当事者が価格決定の申立をした場合は、裁判所の価格決定に委ねられます。

⑵ その他、強制的に株式を買い取られる場合

全部取得条項付種類株式が取得される場合、全部取得条項付種類株主は価格決定手続を取ることが可能です(会社法172条)。

特別支配株主の株式売渡請求制度(会社法179条~179条の10)に基づいた株式等売渡請求があった場合、売渡株主等は、取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所に対し、その有する売渡株式等の売買価格の決定の申立てをすることができます(179条の8第1項)。

4 価格決定の実体

買取価格は「公正な価格」とされていますが(会社法116条1項)が、詳細定める規定は法令にはなく、その詳細は裁判例に委ねられています。

参考裁判例

最判H23.4.19 最判H24.2.29 買取価格の算定基準時は、買取請求時とした判例

最判H23.4.19 東京地決H21.4.17 東京地決H22.3.5

最判H23.4.26 東京地決H22.3.31 東京高決H22.10.19

東京高決H22.5.24 大阪地決H25.1.31 福岡高決H21.5.15

東京地決H27.11.12 譲渡制限株式の譲渡承認に係る売買価格決定(会社法144条)において、従業員持株会Xと発行会社Yの合意の効力を認め、Yの主張する金額とした事案

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Y会社の従業員持株会Xの請求について、以下のように説示しました。
「会社法144条2項に基づく申立てがなされた場合には、譲渡等承認請求時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮して株式の売買価格を決定すべきであるが(同条3項)、法はこれを非訟手続によるべきとしていることなどからすれば、上記売買価格の決定は裁判所の合理的裁量に委ねられているものと解される。そして、前記申立てに係る株式の売買価格の決定手続は、株主には投下資本を回収する自由があることに鑑み、株主に適性な価格で株式を譲渡する機会を確保する趣旨に出たものと解されるから、一般的には、裁判所が決定すべき売買価格とは、譲渡等承認請求時における株式の客観的な交換価値であると解される。
 しかし、会社が譲渡等承認請求に対してこれを承認せず、会社が買い取る旨を決定したことにより会社と譲渡等承認請求者との間に当該株式の売買契約が成立したのと同様の法律関係が生ずることとなる場合において、あらかじめ、譲渡等承認請求者と会社との間で株式の売買価格についての合意がある場合には、これが株主の投下資本の回収を著しく制限する不合理なものであるなどといった特段の事情のない限り、裁判所は上記合意に基づく価格をもって当該株式の売買価格と決定するのが相当である。・・・Xが本件株式を第三者あるいは会員に譲渡することは想定されておらず、本件のように、Xが解散するなどして、本件株式を保有することができなくなった場合には、関係人が1株につき本件規約26条2項所定の配当還元方式又は額面に相当する額(500円)で本件株式を買い取る旨の黙示の合意があったと認めるのが相当である。」