このページでは、増資/募集株式の発行等の種類及び手続について整理しています。

増資とは資本金を増加させることを言います。増資は、有償増資無償増資があり、有償増資募集株式の発行等になります。募集株式の発行等は、新株を発行する場合だけでなく、会社が保有している自己株式を処分する場合も含まれます。保有している自己株式は、資本のマイナスになっていますので、自己株式の処分も資本のマイナスを解消(=増資)という扱いになるのです。

なお、やや混乱しやすい概念として、自己株式の消却があります。「処分」は、外部に譲渡(=株式発行)になりますが、「消却」は株式を消滅させる手続で、全く違うものですので、注意してください。

以下で公開会社とは、一部でも譲渡制限のない株式を発行している会社を、非公開会社又は閉鎖会社とは全発行株式が譲渡制限株式である会社を指します。譲渡制限株式とは、株式譲渡を行う場合、株主総会決議又は取締役会決議が必要な株式をいいます。また、本サイトは主に中小企業を念頭においていますので、上場規制などについては触れていません。

1 増資の種類について(整理)

⑴ はじめに

増資とは、資本金を増加させることを言います。
増資には大きく、金銭等の払込みを伴う有償増資と、金銭等の払込のない無償増資に区分されます。

有償増資募集株式の発行等になります。募集株式の発行等は、新株を発行する場合だけでなく、会社が保有している自己株式を処分する場合も含まれます。保有している自己株式は、資本のマイナスになっていますので、自己株式の処分も資本のマイナスを解消(=増資)という扱いになるのです。

⑵ 有償増資

有償増資は、金銭の払込等を伴う増資です。なお、金銭だけでなく金銭以外の現物出資も可能とされており、その典型的なものがDES(会社に対する債権を現物出資するもの)になります。

有償増資は、以下のように分類されることが一般的です。
株主割当:株主割合に応じて新たな株式取得の機会を与える増資(会社法202条
第三者割当増資:株主割当以外の方法に増資
 (特定の第三者、株主の中の特定の者に株式取得の機会を与えるものを指すことが一般的です)
公募増資:会社法上は、第三者割当増資の一種類です。主に上場会社が広く出資者を募ることを指します。本サイトでは取り上げません。

⑶ 無償増資

無償増資は、金銭の払込等を伴わない増資です。

無償増資は、以下のように分類されます。
①資本準備金・利益準備金の資本組入れ(会社法448条1項
②資本剰余金・利益剰余金の資本組入れ(会社法450条

つまり、無償増資は、資本勘定内の移動になりますので、本ページではこれ以上触れません。

2 株主割当増資の手続

株主割当による募集株式の発行等は、新株を発行する場合だけでなく、会社が保有している自己株式を処分する場合も含まれます。いずれも同じ手続になります。なお、株主が引き受ける場合でも、株主割合で割り付けない場合は、第三者割当増資となります。なお、株式を発行する場合は、定款で定めた発行可能株式総数(会社法37条、113条)の範囲内であることが必要です。

⑴ 株主総会決議又は取締役会決議(会社法199条2項、会社法202条)

閉鎖会社の場合は、以下の募集事項につき、原則として株主総会決議を得なければなりません。譲渡制限株式の募集を行う場合は、特別決議が必要です(会社法309条2項5号)。つまり、閉鎖会社の場合は、特別決議が必要となります。ただし、株主割当の場合の募集については、取締役の決定(取締役会設置会社の場合は取締役会決議)によって定めることとができる旨を定款で定めることができ、かかる定款の定めがある場合は、取締役の決定(取締役会設置会社の場合は取締役会決議)で足ります(会社法202条3項)。

① 募集株式の数
② 募集株式の払込金額又はその算定方法
③ 金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
④ 募集株式と引換えにする金銭の払込み又は前号の財産の給付の期日又はその期間
⑤ 株式を発行するときは、増加する資本金及び資本準備金に関する事項
⑥ 株主に割当てる権利を与える旨及びその期日

公開会社の場合は、取締役決議(会社法202条3項)。

⑵ 出資まで手続の概要

概要、以下の段取りで出資までの手続が行われます。

①募集事項等の株主への通知(会社法202条4項

②募集株式の申込み(会社法203条)。なお申込みにより、当然に引受人となります。

③出資の履行(会社法208条、209条

⑤登記(会社法915条

3 第三者割当増資の手続

⑴株主総会決議又は取締役会決議

閉鎖会社の場合は、原則として株主総会の特別決議が必要です(会社法199条2項、309条2項)。ただ、株主総会特別決議によって、募集株式の数の上限及び払込金額の下限を定めたうえで、募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に委任することができます(会社法200条1項)。この株主総会決議は、決議から払込期日又は払込期間の末日が1年以内のみについて効力があります。

公開会社の場合は、原則として取締役会決議で募集事項を決定できます(会社法201条1項)。ただし、払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合(有利発行といいます。)には、株主総会の特別決議が必要となります(会社法201条1項、199条3項)。この場合、取締役は、株主総会において、当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければなりません(会社法199条3項)。

参考裁判例:最判S50.4.8、東京地決H16.6.1最判27.2.19

最判27.2.19 非上場会社が株主以外の者に新株を発行する場合、客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって発行価額が決定されていたといえる場合には、その発行価額は特別の事情のない限り、「特ニ有利ナル発行価額」には当たらないとした判例

裁判例の詳細を見る
株主Xが、取締役であったYらに対し、新株発行おける発行価額が「特ニ有利ナル発行価額」に当たるにもかかわらず理由の説明がなかったなどとして、損害賠償の支払いを求めた株主代表訴訟を提起したのが本件です。本判決は以下のように説示し、Xの請求を認めませんでした。
「非上場会社の株価の算定については、簿価純資産法、時価純資産法、配当還元法、収益還元法、DCF法、類似会社比準法など様々な評価手法が存在しているのであって、どのような場合にどの評価手法を用いるべきかについて明確な判断基準が確立されているというわけではない。また、個々の評価手法においても、将来の収益、フリーキャッシュフロー等の予測値や、還元率、割引率等の数値、類似会社の範囲など、ある程度の幅のある判断要素が含まれていることが少なくない。株価の算定に関する上記のような状況に鑑みると、取締役会が、新株発行当時、客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって発行価額を決定していたにもかかわらず、裁判所が、事後的に、他の評価手法を用いたり、異なる予測値等を採用したりするなどして、改めて株価の算定を行った上、その算定結果と現実の発行価額とを比較して「特ニ有利ナル発行価額」に当たるか否かを判断するのは、取締役らの予測可能性を害することともなり、相当ではないというべきである。したがって、非上場会社が株主以外の者に新株を発行するに際し、客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって発行価額が決定されていたといえる場合には、その発行価額は、特別の事情のない限り、「特ニ有利ナル発行価額」には当たらないと解するのが相当である。

⑵ 出資まで手続の概要

概要、以下の段取りで出資までの手続が行われます。

①株主への通知又は公告(会社法201条

②募集株式の申込み(会社法203条

③募集株式の割当て(会社法204条、206条

④出資の履行(会社法208条、209条

⑤登記(会社法915条

4 募集株式の発行をめぐる訴訟・仮処分

募集株式の発行に関して争う訴訟や仮処分としては以下のものがあります。

⑴ 募集株式発行等差止の訴え・仮処分

募集株式の発行等(新株発行又は自己株式の処分)が、①法令又は定款に違反する場合又は、②著しく不公正な方法により行われる場合、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、会社に対し、募集株式の発行等の差止を請求することができます(会社法201条)。
当該差止請求権を被保全債権とした差止の仮処分も可能です(実務上は仮処分が一般的です)。
②については、主要目的ルールによる裁判例が多いですが(東京地決H元.7.25、東京地決H16.7.30、東京高決H16.8.4)、対抗策の必要性や相当性が認められる場合には、不公正と評価されない場合もあります(東京高決H17.3.23、最決H19.8.7、東京地決H20.6.23)。

なお、仮処分命令を無視して、会syが募集株式の発行等をした場合、募集株式の発行等無効の訴えにおける無効原因となります(最判H5.12.16)。

参考裁判例
大阪地決H16.9.27 法令定款違反があっても、株主に不利益が発生しない場合には210条による差止の対象とはならないとした裁判例。
東京高決H17.3.23 敵対的買収事案で主要目的ルールに一定の例外を認めた裁判例
最決H19.8.7 敵対的買収事案で、差別的な内容の新株予約権の無償割当を適法とした判例

⑵ 募集株式の発行等無効の訴え

募集株式の発行等(新株発行又は自己株式の処分)が法令又は定款に違反するなど重大な瑕疵がある場合、株主、取締役、清算人、監査役、執行役(以下、「株主等」といいます)、会社に対し、募集株式の発行等を無効とすることを求める訴えを提起することができます(会社法828条2項、834条2号)。
代表権のある者が行った行為は、内部的な意思決定を欠いていても、原則として無効とはならないとされています(最判S36.3.31、最判S46.7.16)。
著しく不公正な方法による発行の場合、差止判決を無視して発行された場合や、公示がされなかった場合には無効事由となりますが、公示がされている場合には無効事由にはならないとされています(最判H5.12.16、最判H9.1.28、最判H6.7.14)。

提訴期間に制限があり、株式の発行の効力が生じた日又は、自己株式の処分の効力が生じた日から6か月以内(閉鎖会社は1年以内)でなければ、訴えを提起できません(会社法828条1項)。

確定判決には対世効があります(会社法838条)。請求認容判決が確定したときは、募集株式の発行等は将来に向かってその効力を失い(会社法839条)、会社は無効となった募集株式の発行等に係る株主に対し、払込みを受けた金額又は給付を受けた財産の給付の時における価額に相当する金銭を支払うなどの手続をしなければなりません(会社法840条)。

⑶ 募集株式の発行等不存在確認の訴え

募集株式の発行等(新株発行又は自己株式の処分)の実体がないにもかかわらず登記されているような場合、確認の利益のある株主等、会社に対し、募集株式の発行等が不存在であることの確認を求める訴えを提起することができます(会社法834条13号

確定判決には対世効があります(会社法838条)。