このページでは、取締役の会社に対する責任の一つである、他の取締役に対する監視義務違反について整理しています。
取締役は、会社に対して、任務懈怠責任をはじめ、様々な義務を負っています。これは取締役の会社における役割の重要性を反映したものです。任務懈怠責任の一つとして、他の取締役の監視義務違反が議論されることがあります。
なお、取締役の会社に対する責任全般については、下記のリンク先をご参照ください。
1 他の取締役に対する監視義務違反とは
自らが任務懈怠責任を問われる行為を行った場合でなくても、他の取締役が任務懈怠責任を問われる行為を行ったことに対する監視義務違反を問われる場合があります。
他の取締役に対する監視義務違反が、判例により認められています(最判S48.5.22 東京高判8.11.12 東京高判H20.5.24など)。裁判例などは以下のリンク先をご参照下さい。
2 裁判例
東京高判H8.11.12
関連会社への貸付に監視義務違反を認めた裁判例
甲社及び乙社の代表取締役であったY1が、甲社に対する融資や甲社の債務についての保証等を乙社の代表取締役として行ったのに対し、乙社の取締役Y2らはこれを制止しませんでした。
本判決は、Y1に損賠賠償責任があることを前提として、Y2らの監視義務違反の点について「乙社の取締役会が開催されたことがなかったとしても,Y2らは,乙社の取締役として,Y1の業務執行一般について監視し,取締役会を招集することを求め,取締役会を通じてその業務執行が適正に行われるようにすべき職責を怠ったというべきであるから,取締役としての監視義務違反の責任を免れることはできない。・・・代表取締役であったY1の意向に唯々諾々と従って右の行為を了承していたことが認められるのであるから,Y2らが取締役としての監視義務に違反したことは明らかである。」としましした。
東京高判H20.5.21
監視義務違反に基づく責任を否定した裁判例
甲社が、デリバティブ取引により553億円にのぼる損失を計上したことにつき、デリバティブ取引担当であったY1には取引についての善管注意義務違反で、その他の取締役Y2らについては監視義務違反に基づき株主代表訴訟が提起されました。
本判決は、「その他の取締役については、相応のリスク管理体制に基づいて職務執行に対する監視が行われている以上、特に担当取締役の職務執行が違法であることを疑わせる特段の事情が存在しない限り、担当取締役の職務執行が適法であると信頼することには正当性が認められるのであり、このような特段の事情のない限り、監視義務を内容とする善管注意義務違反に問われることはないというべきである。 」としました。