このページでは、特別支配株主の株式売渡請求制度(会社法179条~179条の10)について整理しています。

特別支配株主の株式売渡請求制度とは、特別支配株主が、少数株主の有する対象会社の株式等(株式,新株予約権,新株予約権付社債)を、強制的に(=少数株主の同意なく)、少数株主から金銭を対価として取得することができる(=「キャッシュアウト」と呼ばれます)制度です。

非常に強力な制度です。

1 制度の概要

特別支配株主の株式売渡請求制度とは、特別支配株主が、少数株主の有する対象会社の株式等(株式,新株予約権,新株予約権付社債)を、強制的に(=少数株主の同意なく)、少数株主から金銭を対価として取得することができる(=「キャッシュアウト」と呼ばれます)制度です。

特別支配株主とは、対象会社の総株主の議決権の10分の9(定款で引き上げ可能)以上を有する株主をいいます(会社法179条1項。なお株主には、当該者が発行済株式の全部を有する株式会社その他これに準ずるものとして法務省令で定める法人による保有も含まれます。

売渡請求の相手方は、対象会社の他の株主及び新株予約権者、新株予約権付社債保有者になります。

2 手続きの概要

特別支配株主の株式売渡請求制度の手続きの概要は以下のとおりです。

⑴ 特別支配株主から対象会社への通知(対象会社の承諾)

特別支配株主は、株式売渡請求によりその有する対象会社の株式を売り渡す株主(「売渡株主」)に対して売渡株式の対価として交付する金銭の額又はその算定方法などを決めたうえで、対象会社に通知し、対象会社の承認を得なければなりません(179条の2第1項、179条の3第1項、4項)。

⑵ 対象会社の対応

売渡株主等に対する通知
対象会社は、承認をしたときは、取得日の20日前までに、売渡株主等(売渡株主及び売渡新株予約権者を指します)に、当該承認をした旨、特別支配株主の氏名又は名称及び住所等を、通知しなければなりません(179条の4第1項、2項)。売渡新株予約権者登録株式質権者は通知に代えて、公告することもできます(179条の4第2項)。なお、振替株式発行会社の売渡株主等に対しては、公告になります(社債株式振替法161条2項)。
上記通知(又は公告)をしたときは、特別支配株主から売渡株主等に対し、株式等売渡請求がされたものとみなされます(179条の4第3項)。

事前開示
対象会社は、通知の日(又は公告の日のいずれか早い日)から取得日後6ヶ月(閉鎖会社の場合は、1年)、179条の5第1項に掲げる事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録を本店に備え置き、売渡株主等の閲覧等に供しなければなりません(179条の5)。

⑶ 特別支配株主の取得

株式等売渡請求をした特別支配株主は、取得日に、売渡株式等の全部を取得します(179条の9第1項)。

なお、特別支配株主が取得した売渡株式等が譲渡制限株式又は譲渡制限新株予約権であるときは、対象会社は承認をする旨の決定をしたものとみなされます(179条の9第2項)。

⑷ 対象会社の対応

事後開示
対象会社は、取得日後遅滞なく、株式等売渡請求に係る売渡株式等の取得に関する事項として法務省令で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録を作成し、取得日から6ヶ月(閉鎖会社の場合は1年間))、本店に備え置き、売渡株主等の閲覧等に供しなければなりません(179条の10)。

3 売渡株主等の保護

特別支配株主の株式売渡請求制度は、非常に強力な手続きですので、売渡株主の保護としては、以下の制度が準備されています。なお、条文はすべて会社法です。

⑴ 価格決定の申立て

株式等売渡請求があった場合には、売渡株主等は、取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所に対し、その有する売渡株式等の売買価格の決定の申立てをすることができます(179条の8第1項)。

最決H29.8.30 通知又は公告により株式を売り渡すことになることが確定した後に売渡株式を譲り受けた者は、売買価格決定の申立てをすることができないとした判例

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「特別支配株主の株式売渡請求は、その株式売渡請求に係る株式を発行している対象会社が、株主総会の決議を経ることなく、これを承認し、その旨及び対価の額等を売渡株主に対し通知し又は公告すること(法179条の4第1項1号、社債、株式等の振替に関する法律161条2項)により、個々の売渡株主の承諾を要しないで法律上当然に、特別支配株主と売渡株主との間に売渡株式についての売買契約が成立したのと同様の法律関係が生ずることになり(法179条の4第3項)、特別支配株主が株式売渡請求において定めた取得日に売渡株式の全部を取得するものである(法179条の9第1項)。法179条の8第1項が売買価格決定の申立ての制度を設けた趣旨は、上記の通知又は公告により、その時点における対象会社の株主が、その意思にかかわらず定められた対価の額で株式を売り渡すことになることから、そのような株主であって上記の対価の額に不服がある者に対し適正な対価を得る機会を与えることにあると解されるのであり、上記の通知又は公告により株式を売り渡すことになることが確定した後に売渡株式を譲り受けた者は、同項による保護の対象として想定されていないと解するのが相当である。
 したがって、上記の通知又は公告がされた後に売渡株式を譲り受けた者は、売買価格決定の申立てをすることができないというべきである。

⑵ 差止請求

株式売渡請求が法令に違反する場合などにおいて、売渡株主が不利益を受けるおそれがあるときは、売渡株主は、差止め請求が可能です(179条の7)。

⑶ 無効の訴え

後であれば、無効の訴えが可能です。提訴期間は取得日から6ヶ月(閉鎖会社の場合は1年間)とされています(846条の2)。