このページは(代表)取締役の選任、解任、職務について説明しています。なお、中小企業を念頭においていますので、金融商品取引法や上場規制には触れていません

以下で公開会社とは、一部でも譲渡制限のない株式を発行している会社を、非公開会社又は閉鎖会社とは全発行株式が譲渡制限株式である会社を指します。譲渡制限株式とは、株式譲渡を行う場合、株主総会決議又は取締役会決議が必要な株式をいいます。

1 取締役の選任、任期など

⑴ 取締役の資格

法令上は、法人や一定の犯罪で刑の執行を受けた後一定期間が経過していないことなどが欠格事由とされています(会社法331条)。また、監査役との兼務や、会計参与との兼務は禁止されています(会社法335条2項、会社法333条3項)。なお、破産者であっても取締役になることは可能ですが、取締役が破産手続開始決定を受けた場合、会社と取締役の間の委任契約は終了するため(民法653条2項)、退任となります。取締役を続けるためには、再度株主総会で選任される必要があります。

定款で取締役の資格に合理的な制限を課す(定年制を導入するなど)ことは可能とされています。ただし、公開会社は、定款で取締役の資格を株主に限ることはできません(会社法331条2項)。

社外取締役については、上記に加えて、現在及び過去に、会社又は子会社の役員や従業員でなかったことなどの要件が付されています(会社法2条15号)。

⑴ 取締役の必要員数

取締役の員数は以下のとおりです。通常は定款で最低員数や最高員数などを定めます。

取締役会を設置しない場合は1名以上会社法326条1項

取締役会を設置する場合は、3名以上会社法331条5項

なお、死亡、辞任、解任などにより取締役の人数が足りなくなった場合は、遅滞なく株主総会を招集し選任する必要があります。手続を怠ると取締役や監査役に過料が課されることがあります(会社法976条2号)。そこで、補欠取締役を選任することも可能とされています(会社法329条3項)。

⑵ 選任

取締役は、株主総会普通決議(過半数の出席、過半数の賛成。なお定款で一定の範囲増減可能)で選任されます(会社法329条1項、309条1項、341条)。なお、種類株主総会において取締役を選任する種類株式を発行した場合は、種類株主総会で選任されます(会社法108条1項9号、会社法329条1項、会社法347条)。

選任後、会社は取締役との間で委任契約を締結しなければなりません(会社法330条)。実務上は取締役が就任承諾書を会社に提出したり、選任された株主総会で就任挨拶することで委任契約に代替することも多い。

取締役は、氏名を登記する必要があります(会社法911条3項)。

⑶ 取締役の任期

取締役の任期は原則2年ですが、以下のとおり例外規定が定められています。

定款又は株主総会決議による短縮が可能です(会社法332条1項)。
公開会社は、伸長はできません。
非公開会社の場合は任期を10年ま伸長することが可能です(会社法332条2項)。

なお、剰余金の配当等を株主総会でなく取締役会で定めえる旨を定款で規定した場合は、任期は1年以内に終了する事業年度の最終のものに関する株主総会終結日以前としなければなりません(会社法459条1項)。

参考裁判例 東京地判H27.6.29 名古屋地判R1.10.31 東京地判H28.6.29

⑷ 取締役の地位確認、地位不存在確認訴訟

会社とある者の間で、その者が取締役の地位にあるか否かにつき争いがある場合、地位に有ると主張する側が取締役の地位確認訴訟を、地位に無いと主張する側は取締役の地位不存在確認訴訟を、それぞれ提起することが可能です。事案によっては株主など法律上の利害関係を有する者も訴訟提起が可能です。

2 取締役の終任

⑴ 解任以外の終了事由

任期満了が最も一般的な終了事由ですが、解任以外の終了事由としては以下の①~④のようなものがあります。取締役が終任した場合は、その旨登記しなければなりません(会社法911条3項、915条1項)。すみやかに退任登記がされない場合、退任登記未了の者は、会社に対して、退任登記手続請求訴訟を提起することが可能です。

①辞任民法651条1項)  辞任に関する参考裁判例 東京高判S59.11.13 岡山地判S45.2.27

取締役が資格を喪失した場合(会社法331条

会社が解散した場合(会社法477条1項)。なお、破産開始決定により会社は解散しますが(会社法471条)、一部取締役の地位が残るとされています。以下のリンク先(の下の方の)をご参照下さい。

閉鎖会社が公開会社となる場合は、当該定款の効力が生じた時点で、取締役の任期は満了します(会社法332条4項)。

なお、就任により法律若しくは定款で定めた役員の員数に欠けた場合、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員が就任するまで、なお取締役としての権利義務を有します(会社法346条1項)。取締役の欠員が生じた場合、利害関係人(株主など)の申立により、裁判所は一時取締役を選任することも可能です(会社法346条2項)。

参考裁判例

最判H20.2.26 一時取締役の選任により、取締役の権利義務を有する者はその地位を失うとした判例

最判S43.12.24 大阪高判H6.12.21

⑵ 解任

取締役は、当該取締役を選任した(種類)株主総会の普通決議(定款で解任要件を加重することは可能です)により解任されることがあります会社法339条1項、341条、347条1項)。なお、決議要件は、選任決議の場合と同じです。

取締役の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたとき(種類株主の拒否権により効力を生じないときを含む)は、総株主の議決権の100分の3又は発行済株式の100の3以上の株式を有する株主(定款で要件を引き下げることが可能です)は、当該株主総会の日から30日以内に、当該役員の解任請求訴訟を提起することができます。なおこの場合の被告は、会社と当該役員双方になります(会社法855条)。

参考裁判例

高松高決H18.11.27 解任事由となる行為は総会招集前又は開催前に生じた行為であることは必要ないとした裁判例

神戸地判S51.6.18 解任の訴え中に任期満了で退任し再選任された場合、訴えの利益は失われるとした裁判例

東京地判H23.1.26 宮崎地判H22.9.3

⑶ 取締役解任に伴う損害賠償請求について

解任された取締役は、その解任について正当な理由がある場合を除き、会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができます会社法339条2項)。

「正当な理由」については以下のような裁判例があります。

最判S57.1.21 持病の悪化により代表取締役を辞任した者を解任は「正当な理由」に基づくとした判例
横浜地判H24.7.20 東京地判H26.12.18 最判S57.1.21 秋田地判H21.9.8 東京地判H30.3.29

「損害」額は、解任されなければ得られた在任中のに得られた報酬額とされることが多いようです。

⑷ 職務執行停止の仮処分

民事保全法に基づく仮の地位を定める仮処分として、取締役職務執行を停止し、職務代行者の選任を申し立てることが可能とされています(民事保全法23条2項)。

申立が認められるためには「保全の必要性」を疎明することが必要です。保全の必要性とは、当該取締役が職務執行を継続すると会社に回復不能の損害が生じることとされています(名古屋高決H2.11.26)

職務代行者は、仮処分命令に別段の定めがある場合を除き、株式会社の常務に属しない行為をするには、裁判所の許可を得なければなりません。許可を得ずに行った職務代行者の行為は、無効とされています(会社法352条)

参考裁判例 最判S50.6.27

3 取締役の職務

⑴ 取締役会設置会社における職務

業務執行の決定:取締役会(会社法362条2項

業務執行の遂行代表取締役。ただし、代表取締役以外に、業務執行取締役を選定することも可能(会社法363条1項

⑵ 取締役会を設置していない会社における職務

業務執行の決定取締役の過半数で業務執行の決定します。定款で別段の定めをすることは可能です。(会社法348条2項)よって、取締役が1名の場合には、定款に別段の定めのない限り広範な権限を有することになります。

業務執行の遂行各取締役が会社を代表して業務執行することできます(会社法348条1項。ただし、定款で特定の取締役の業務執行権限を制約することは可能です。
なお、取締役を設置していない会社においても、代表取締役を選定することは可能で(会社法349条3項)、選定した場合、対外的に会社を代表するのは代表取締役が有することになります。

4 取締役の責任(リンク先)

取締役の責任、監査役の責任など、役員の責任については、近時企業不祥事の多発にともなって関心も高いところです。
取締役の責任は、大きく、
①取締役の会社法上の義務(利益相反取引に関する義務など)
②取締役の会社に対する責任
③取締役の第三者に対する責任
に分けて考えられます。それぞれ裁判例も多いところです。

それぞれ以下のリンク先をご参照下さい。

5 代表取締役

⑴ 取締役会設置会社における代表取締役

取締役会決議で取締役の中から選任されます(会社法362条2項、3項。代表取締役の氏名、住所は登記しなければなりません(会社法911条3項)。

代表取締役は会社の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有します。また、権限に制限を加えた場合でも、善意の第三者には対抗できません。(会社法349条4項、5項

取締役会は、代表取締役を解職できます(会社法362条2項、3項)。また取締役の地位を失うと、代表取締役の地位も失います。

なお、死亡や辞任などにより代表取締役が欠けた場合、生きている代表取締役は、新たに選任された代表取締役が就任するまで、なお代表取締役としての権利義務を有します(会社法351条1項)。取締役の欠員が生じた場合、利害関係人(株主など)の申立により、裁判所は一時代表取締役を選任することも可能です(会社法351条2項)。

⑵ 取締役会を設置していない会社における代表取締役

定款の定めに基づく取締役の互選又は株主総会決議によって選定します。

取締役を設置していない会社においては、各取締役が会社を代表するのが原則ですが、代表取締役を選定した場合、対外的に会社を代表するのは代表取締役のみとなります(会社法349条1項)。

大阪地判H30.2.20 取締役会非設置会社において代表取締役が選任されている場合、代表取締役以外の取締役が過半数で行っても対外的業務執行権は認められないとされた事例

裁判例の詳細を見る
株式会社XがY(銀行)を訴えた事案で、Xの代表権を有していたA以外の過半数の取締役であるB及びCが作成したD弁護士あての訴訟委任状が有効か否かが争われた。本判決は以下のように説示し、B及びCが作成した委任状は真正に作成されたものではないとした。
「Xのような取締役会設置会社以外の株式会社において、取締役の中から代表取締役が選定された場合、他の取締役が有する権限は対内的な業務執行権にとどまるのであって、会社の対外的な業務執行権である会社の業務に関する一切の裁判上及び裁判外の行為をする権限は代表取締役にあると解されるから(会社法349条4項。原告の定款28条において、「当会社の業務は、取締役の過半数をもって決定する。」とされているのは、飽くまで原告の対内的な業務執行権を定めたものと解される。)、取締役の対内的な業務決定が直ちに対外的な業務執行権の行使に該当するものではなく、取締役の過半数が代表取締役に代わって対外的な業務執行権を行使することはできないと解するのが相当である。そうすると、本件訴え提起後に原告の過半数の取締役であるB及びCが会社の業務(具体的には、D弁護士に本件訴訟を委任し、それに基づく委任状をB及びCが作成すること)を決定したとしても、その決定が直ちに対外的な業務執行権の行使に該当するものではなく、取締役の過半数であるB及びCが代表取締役であるAに代わって対外的な業務執行を行使する権限(具体的には、原告代表取締役名義で委任状を作成することができる権限)を有するものではないというべきである(なお、・・・A自身が、Xの代表取締役として、本件訴訟をE弁護士に委任する意思を有しており、D弁護士に委任する意思を有していないことは、明らかである。)。したがって、本件訴訟をD弁護士に委任する旨の平成29年10月20日付け委任状・・・はAの意思に基づいて作成されたもの(つまり真正に成立したもの)とはいえず、D弁護士の訴訟代理権は欠けていることになる。」

代表取締役は会社の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有します。また、権限に制限を加えた場合でも、善意の第三者には対抗できません。(会社法349条4項、5項

なお、死亡や辞任などにより代表取締役が欠けた場合、生きている代表取締役は、新たに選任された代表取締役が就任するまで、なお代表取締役としての権利義務を有します(会社法351条1項)。取締役の欠員が生じた場合、利害関係人(株主など)の申立により、裁判所は一時代表取締役を選任することも可能です(会社法351条2項)。

⑶ 表見代表取締役(会社法354条)とは

株式会社は、代表取締役以外の取締役に社長、副社長その他株式会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付した場合(付された者を「表見代表取締役」と言います。)には、当該取締役がした行為について、善意・無重過失の第三者に対してその責任を負います。

最判S44.11.27 「代表取締役代行者」が表見代表取締役にあたるとした判例

最判S42.4.28 相手方が登記簿を確認していない場合でも成立するとした判例

最判S35.10.14 取締役でない使用人についても本条の類推適用があるとした判例

最判S41.11.10 相手方は善意であれば足り、無過失である必要はないとした判例。ただし相手方の重過失は悪意と同視される(最判S52.10.14)。

⑷ 代表取締役の行為に対する会社の責任(会社法350条)

株式会社は、代表取締役その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負います(会社法350条)。

以下のような裁判例があります。

札幌地判S48.4.27

札幌高判H3.10.21

千葉地判H10.3.26

東京八王子支判H15.12.10

大分地判H20.3.3

⑸ 代表取締役が無権限で行った行為の効力について

代表取締役が取締役会決議を得なければならない行為について取締役会決議を得ないで行った行為や、会社のためでなく自己又は第三者のために行った行為の効力が裁判で争われることがあります。

原則としてそのような行為も有効ですが、相手方が決議を経ていないことを知りまたは知りえたときは無効(最判S40.9.22)であるが、無効の主張は当該会社以外の者は原則として主張でなきない(最判H21.4.27)とするのが有力な見解のようです。

なお、株主全員の同意が認められる場合には、行為は有効となることがあります(最判H5.3.30、最判S49.9.26)。

参考裁判例:福岡高那覇支判H10.2.24、東京高判H11.1.27、東京地判H12.3.13、最判H5.9.9

⑹ 代表取締役の権限濫用

代表取締役の権限の範囲内ですが、自己又は第三者の利益のために行った行為が問題となることがあります。そのような行為も原則として有効ですが、相手方が悪意又は過失がある場合は無効になると解されています(最判S38.9.5)。