このページでは、株主の地位、株主名簿、譲渡制限など、株主に関する基本的lな事項について整理しています。株主・株式を巡る紛争についても触れています。
なお、中小企業を念頭に置いていますので、上場関係の規制には触れていません。また振替株式についても触れていません。
以下で公開会社とは、一部でも譲渡制限のない株式を発行している会社を、非公開会社又は閉鎖会社とは全発行株式が譲渡制限株式である会社を指します。譲渡制限株式とは、株式譲渡を行う場合、株主総会決議又は取締役会決議が必要な株式をいいます。
なお、株主の権利については、以下のリンク先をご参照下さい。
1 株主、株式、株券とは
⑴ 基本的な概念(用語)の確認
「株主」とは会社に対する出資者であり、会社の構成員です。
「株式」とは、株主が会社との間で有する法律関係の地位をいいます。過去には額面株式もありましたが、会社法では無額面株式のみです。
「株券」は、株主の地位を表章する有価証券です。会社法は株券不発行を原則とします。もっとも、会社法施行日(2006年5月)以前は株券発行が原則であったことから、今でも株券発行会社は多数存在します。
⑵ 株券
上記のとおり、会社法は株券不発行を原則とします。なお、株券発行会社が株券不発行にする場合も、株券不発行会社が株券発行会社にする場合、いずれも定款変更その他の手続が必要になります。
株券の記載事項は法定されています(会社法216条)。
株券不発行会社の場合、株主は会社に対して株主名簿記載事項を記載した書面の交付又は電磁的記録の提供を請求することができます(会社法122条1項、4項)。
株券発行会社であっても、閉鎖会社は、株主から請求がある時までは、株券を発行しないことができます(会社法215条4項)。
また、株券発行会社の株主は、会社に対し、自己所有の株式に係る株券の所持を希望しない旨を申し出ることができます(株券不所持制度 会社法217条)。
株券発行会社の公開会社が株券を発行しない場合や、株券発行会社の閉鎖会社の株主が株券を発行するように請求したにもかかわらずすみやかに発行しない場合、株主は株券を発行するように請求する訴訟を提起できます(株券発行請求訴訟)。
⑶ 補足
投資単位の調整として、株式の数を増やす株式分割・株式無償割当、株式の数を減らす株式併合という制度があります。
また、発行する株式について、定款で株主が株主総会又は種類株主総会において1個の議決権等を行使することができる単位を、一定数の株式(1単元)に限定する単元株制度もあります。
これらの制度は、上場企業以外では、ほとんど使われていませんので、本サイトでは、説明は省略致します。なお、公開会社であれば発行株式は定款で定められる発行可能株式総数の4分の1以上でなければならなりませんが、閉鎖会社についてはそのような制限はありません(会社法37条3項、113条3項)。
2 株主平等原則
⑴ 株主平等原則とは?
会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければなりません(会社法109条1項)。これを株主平等原則といいます。支配株主の濫用から少数株主を守る作用を有します。
参考裁判例:最判S45.11.24 特定の大株主に対する歳暮等の名目で金員の贈与をする契約が株主平等原則に違反し契約は無効であるとされた事例
⑵ 株主平等原則の例外
株主平等原則には、以下の例外があります。
①閉鎖会社は、剰余金の配当、残余財産の分配、議決権について株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができます(会社法105条2項)。この場合、それぞれが内容の異なる種類の株式とみなされます(会社法109条3項)。つまり、種類株主総会等が必要になる場合があります。
②一定の範囲の株主優待制度(限界は明解ではありません)
③閉鎖会社については、剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利、株主総会における議決権に関する事項について、定款で、株主ごとに異なる定めが可能です(会社法109条2項)。
3 株主名簿
会社は、株主名簿を作成し、株主の氏名、住所等を記載又は記録しなければなりません(会社法121条)。会社は、株主名簿を本店(株主名簿管理人がある場合は、その営業所)に備え置かなければなりません(会社法125条1項)。
株主名義名義書換には、対抗要件や免責的効力があります。
株主名簿に関する会社の義務や、株主名簿に記載された場合の効力などについて以下のリンク先にまとめましたので、ご参照下さい。
4 共有株式の権利行使方法について(会社法106条)
⑴ 原則
株式が複数の共有である場合、共有者は、権利行使する者1人を定め会社に対しその者の氏名又は名称を通知しなければ、権利行使することができません(会社法106条本文)。
権利行使者は、共有者の過半数による多数決で指定できると解されています(最判H9.1.28、参考判例:大阪高判H20.11.28)。
なお、権利行使者の権利行使が、仮に共有者内部の合意に反していたとしても、有効と解されています(最判S53.4.14)。
長野地決R3.10.8 特別支配株主の株式売渡請求に対する売渡株式の売買価格決定の申立てが、権利を行使する者の定めと対象会社に対する通知がないことなどを理由に、却下された事例
⑵ 例外
上記原則には、以下の例外が認められています。
①会社が権利行使することに同意した場合(会社法106条ただし書)(参考裁判例:最判H27.2.19)
最判H27.2.19 共有株式は、会社の同意があったとしても、会社法106条本文に基づく指定又は通知を欠いている場合、権利行使は適法とならないとした判例
②指定・通知がないことを理由に会社が権利行使を拒否することが信義則に反する特段の事情がある場合(参考裁判例:最判H2.12.4、最判H3.2.19)
最判H2.12.4 株式を準共有する共同相続人間において権利行使者の指定およびその旨の会社に対する通知を欠く場合であっても、会社の発行済株式の全部に相当し、共同相続人のうちの1人を取締役に選任する旨の株主総会決議がされたとしてその旨登記されているときは、他の共同相続人は右決議の不存在確認の訴につき原告適格を有するとした判例
5 株式の譲渡自由と譲渡制限(振替株式については触れていません)
株主は、その有する株式を自由に譲渡することがでます(会社法127条)。
例外として、会社は、譲渡につき会社の承認を要する旨の定めを設けている株式を発行することもでき、これを譲渡制限株式いいます(会社法2条17号)。中小企業では、譲渡制限株式がむしろ原則になっています。譲渡制限株式を譲渡する場合、譲渡株主から(一定の場合譲受人からも可能)承認請求(会社法136条、137条1項)をし、さらに、承認をしない旨の決定をする場合、会社又は指定買取人が株式を買い取るように請求するときができます(以下「買取先指定請求」といいます。)。
株式の譲渡自由の原則及び、譲渡制限株式の譲渡の方法などは以下のリンク先にまとめましたので、ご参照下さい。
6 株主・株式を巡る紛争
⑴ 株主の地位に関する紛争
株式の名義と真実払込をした者が異なる場合に株主の地位が問題となります。
この点判例は、株主になるのは名義人ではなく、実際に払込み・対価の提供を行った者であるとしています(最判S42.11.17)。そこで、株主の地位を主張する者は、実際に払込み・対価の提供を行ったことの立証が必要になります(東京地判S57.3.30)。
⑵ 株主の移転に関する紛争(契約による譲渡制限の合意の有効性)
予め一定の事由が発生した際に株主の地位が移転する旨が合意されていた場合の効力が問題となることがあります。
典型的には従業員持株制度における、従業員の退職時等に株式を代表者等に譲渡する旨の定めの有効性を巡る紛争です。従業員持株制度においては、このような定めも有効とされています(最判H7.4.25、最判H21.2.17)。
⑶ 失念株を巡る紛争
株主名簿の名義書換えを失念していた間に、剰余金の配当、株式分割、株式割当てによる募集株式の発行があった場合の譲渡当事者間の法律関係は、これまでの裁判例から、以下のように整理できます。なお、会社は、名義株主を株主として扱えば足りますので(会社法130条)、株式譲渡人と譲受人の間の問題となります。
剰余金の配当:譲受人は不当利得として譲渡人に配当財産を請求できます(最判S37.4.20)
株式分割:譲受人は不当利得として譲渡人に分割株式(分割株式を売却した場合売却金額)を請求できます(最判H19.3.8)。
株式割当てによる募集株式の発行:譲受人は不当利得返還請求をできません(最判S35.9.15)。