このページは、配当可能利益(分配可能額)の計算方法を整理しています。
分配可能額は、その他剰余金(その他資本剰余金+その他利益剰余金)の額と考えれば足りますが、細かくは以下のとおとなります。
1 分配可能可能額計算
⑴ スタート
最終事業年度の末日における以下の合計額になります。
①その他資本剰余金
②その他利益剰余金
⑵ 減算する項目(会社法461条/446条)
⑴から以下の数字を減算します(細かいものは省略しています)。概要、最終事業年度後の剰余金の減少額及び、会社債権者保護の観点から控除すべきものになります。
①自己株式の帳簿価格(最終事業年度後に消却した自己株式の帳簿価格を含む)
②最終事業年度後に処分した自己株式の対価
③最終事業年度後に剰余金の配当をした場合における配当財産の帳簿価格等
④最終事業年度後にその他剰余金から資本金・準備金に組入れられた額
⑤最終事業年度末日の「その他有価証券評価差額金」「土地再評価差額金」(マイナスの場合)
⑥最終事業年度末日の「のれん等調整額」
⑶ 加算できる項目(446条)
⑴に以下の数字は加算します。
①最終事業年度末日から資本金・準備金を減少した額
②最終事業年度末日以降に、吸収型組織再編行為により剰余金が増加した額
⑷ 補足
純資産が300万円を下回る場合は、剰余金の配当等はできません(会社法458条、461条)。
最終事業年度の末日後に臨時計算書類の承認を受けた場合は、臨時決算書日までの期中損益・自己株式処分損益を算入されます(会社法461条)。
2 違反した場合の効果
配当可能利益を超える剰余金の配当等は、法令違反で無効になります。
株主は会社に配当請求をできませんし、支払いを受けて株主は、会社に返還をしなければなりません(会社法462条1項)。
当該行為に関する職務を行った業務執行者等は、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合でない限り、会社に対し、連帯して、当該金銭等の交付を受けた者が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負います(会社法462条)。
さらに、会社債権者も、返還義務を負う株主に対し、その交付を受けた金銭等の帳簿価額(当該額が当該債権者の株式会社に対して有する債権額を超える場合にあっては、当該債権額)に相当する金銭を支払わせることができます(会社法463条2項)。
東京地判R4.7.14 取締役に分配可能額規制を実質的に潜脱したとして任務懈怠責任を認め、あわせて、事実上の取締役に対する損害賠償責任等を認めた事例
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XがXの元取締役らY1らに対し、分配可能額規制を潜脱したなととして、会社法423条1項または不法行為に基づくXがY1らに支払った役員報酬の一部について支払を求めたのが本件です。本判決は以下のように説示してXの請求を認めました。
「株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとされるところ(法431条)、「中小企業の会計に関する指針」及び「中小企業の会計に関する基本要領」・・・によれば、損益計算書には、一会計期間に属する全ての収益とこれに対応する全ての費用を計上し、また、収益は、原則として、サービスの影響を行いかつこれに対応する現金等を取得した時に計上しなければならないことになる。そして、平成23年法律第72号による改正後の老人福祉法(平成24年4月1日施行。ただし、平成29年法律第52号〔平成30年4月1日施行〕による改正前の)29条6項は、有料老人ホームの設置者は、家賃、敷金及び介護等その他の日常生活上必要な便宜の供与の対価として受領する費用を除くほか、権利金その他の金品を受領してはならないと規定しているところ、原告と入居者との間の契約においても、入居一時金について居室及び共用施設等の利用料である旨が定められていた・・・のであるから、当該入居一時金は、将来の家賃等の前払として支払われたものといえる。このことからすると、Xにおいて行われていた売上げの前倒し計上、費用の後ろ倒し計上及び入居預り金一括計上は、当該年度に属しない収益を当該年度の損益計算書に計上し、当該年度に属する費用を当該年度の損益計算書に計上しない会計処理であるから、上記のような一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に反するものといわざるを得ない。そうすると、Xの剰余金の額の算定は、計算書類上の額につき原告において行われていた売上げの前倒し計上、費用の後ろ倒し計上及び入居預り金一括計上を訂正した実際の額・・・に基づいて行うべきであったところ、上記の実際の額によれば、Xの第12期から第17期までに係る各剰余金の額は存在せず、したがって、上記各期に係る分配可能額も存在しなかったものと認められる。・・・いわゆる一人会社であるXが、その一人株主であって取締役でもある被告Y1に対し、第12期から第16期までにおいて、Xが・・・債務超過にあるにもかかわらず、役員報酬として年額2億6400万円〔月額2200万円。第12期~第15期〕又は2億5400万円〔月額約2117万円。第16期〕を支払ったことは、その旨の株主総会の決議等があったとしても、少なくとも被告Y1以外のXの取締役の報酬額の最高額・・・については、分配可能額の存在を仮装して経理をした上で、他の取締役の報酬等との比較において社会通念上相当な額を上回る取締役の報酬等を支払ったものであり、法の定める分配可能額規制を実質的に潜脱するものとして、許されないものといわざるを得ない。そうすると、第12期から第16期までの原告の被告Y1に対する役員報酬として上記のような額を支払うことを決定した被告Y1の判断は、当時の状況下において、著しく不合理なものといわざるを得ず、被告Y1には取締役としての善管注意義務違反があったというべきである。」