このページでは、株主代表訴訟について整理しています。取締役は、会社に対して、任務懈怠責任をはじめ、様々な義務を負っていますが会社が責任追及しない場合、株主が会社に代わって責任追及する制度です。

以下で公開会社とは、一部でも譲渡制限のない株式を発行している会社を、非公開会社又は閉鎖会社とは全発行株式が譲渡制限株式である会社を指します。譲渡制限株式とは、株式譲渡を行う場合、株主総会決議又は取締役会決議が必要な株式をいいます。

1 当事者

⑴ 原告(会社法847条)

株主代表訴訟の原告は、閉鎖会社株主であれば訴訟提起可能です
公開会社であれば、6か月前から(定款で引下げ可能です。)引き続き株式を有する株主です。
なお、当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は会社に損害を加えることを目的とする訴えは、提起できないとされています。

単元未満株主の提訴権は定款で排除が可能とされています(会社法189条2項)。

なお、株主代表訴訟を提起した後に、株式交換・株式移転又は合併により当該株式会社の完全親会社の株式を取得したときは、株主が当該訴訟の係属中に株主でなくなった場合であっても、訴訟を追行することができます(会社法851条1項)。

⑵ 被告

取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人など(以下、「役員等」と言います)。なお、退任している者も含まれます。

⑶ 訴訟参加(会社法849条1項)

株主、会社は、共同訴訟人として、又は当事者の一方を補助するため、訴訟に参加することができます。ただし、不当に訴訟手続を遅延させることとなるとき、又は裁判所に対し過大な事務負担を及ぼすこととなるときは、参加することができません。

会社が、取締役(監査委員を除く)、執行役等を補助するため訴訟参加するには、監査役、監査委員全員の同意が必要です(会社法849条3項)。

2 株主代表訴訟の提訴に関する特別な定め

株主代表訴訟も通常の訴訟とかわるところはありませんが、会社法上の特別な定めとして、以下のようなものがあります。

⑴ 提訴請求(会社法847条)

まず、株主は、会社に対して、書面又は電磁的方法により、役員等の責任追及等の訴えを提起するように請求する必要があります。監査役設置会社が取締役の責任を追及する訴えにつき提訴請求を受けるのは、監査役になります(会社法386条2項1号)。

会社は、株主からの請求日から60日以内に責任追及等の訴えを提起しない場合、当該請求をした株主から請求を受けたときは、請求者に対し、遅滞なく、責任追及等の訴えを提起しない理由を書面等の方法により通知しなければなりません。
そして、請求日から60日以内に会社が責任追及等の訴えを提起しないときは、当該請求をした株主は、会社のために、責任追及等の訴えを提起することができます

なお、60日の期間の経過により会社に回復することができない損害が生ずるおそれがある場合、株主は、会社のために、直ちに責任追及等の訴えを提起することができます

⑵ 提訴原因(会社法847条1項)

役員等の会社に対する責任を原因とするほか、会社に対する取引債務についての責任を原因として提訴することが可能です(最判H21.3.10)。取締役の会社に対する責任については、以下のサイトをご参照下さい。

また、株主の権利の行使に関し財産上の利益の供与を受けた者に対する返還請求(120条3項)、著しく不公正な払込金額で募集株式・新株予約権を引き受けた者に対する払込金額と公正な価額との差額の支払等を求める訴え(212条1項、285条1項)なども請求原因になります。

なお、訴訟の目的の価額の算定については、財産権上の請求でない請求に係る訴えとみなされ(会社法847条の4第1項)、申立時に裁判所に納める費用は令和4年時点では、1万3000円となります。

⑶ 担保提供命令(会社法847条の4)

訴訟提起がされた場合、裁判所は、被告(役員等)の申立てにより、当該株主等に対し、相当の担保を立てるべきことを命ずることができます。
この場合、被告は、申立てにあたり、訴えの提起が悪意によるものであることを疎明しなければなりません。過失により知らない場合は悪意に含まれないと解されます(東京高決H7.2.20)。

⑷ 訴訟告知等(会社法849条4項、5項)

株主は、株主代表訴訟を提起したときは、遅滞なく、会社に対し、訴訟告知をしなければなりません。
会社は、訴訟告知を受けたときは、遅滞なく、その旨を公告又は株主に通知しなければなりません。

3 株主代表訴訟の終結に関する特別な定め

株主代表訴訟も通常の訴訟とかわるところはありませんが、会社法上の特別な定めとして、以下のようなものがあります。

⑴ 裁判上の和解について(会社法850条)

会社が株主代表訴訟が当事者でない場合、会社の承認がない限り、株主と役員等との間の和解における民事訴訟法267条(「和解又は請求の放棄若しくは認諾を調書に記載したときは、その記載は、確定判決と同一の効力を有する。」)の適用はないとされています。
ただし、裁判所は、会社に対し、和解の内容を通知し、かつ、当該和解に異議があるときは2週間以内に異議を述べるべき旨を催告しなければならず、会社が2週間以内に書面により異議を述べなかったときは、和解をすることを承認したものとみなされます。

なお、会社の承認を得て株主代表訴訟において和解をする場合、役員等の責任免除規程(会社法424条「前条第一項の責任は、総株主の同意がなければ、免除することができない。」)の適用はありません。

⑵ 株主勝訴の場合の会社に対する弁護士費用等の請求(会社法852条1項)

株主代表訴訟で株主が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合、株主が当該訴訟に関し必要な費用(訴訟費用を除く。)を支出したとき又は弁護士若しくは弁護士法人に報酬を支払うべきときは、会社に対し、その費用の額の範囲内又はその報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払を請求することができます。

⑶ 株主敗訴の場合の株主の責任(会社法852条2項)

株主代表訴訟を提起した株主が敗訴した場合であっても、悪意があったときを除き、当該株主は、会社に対し、これによって生じた損害を賠償する義務を負いません。