このページでは、監査役の会社に対する責任/第三者に対する責任について整理しています。
監査役は、会社に対して、任務懈怠責任を負っています(会社法423条1項)。
また、監査役は第三者に対して責任を負う場合もあります。
1 監査役の会社に対する責任とは(法令上の定めの確認)
⑴ 責任に関する定め
監査役は、その任務を怠ったときは、会社に対し、これによって生じた損害を連帯して賠償する責任を負います(会社法423条1項、430条)。なお、取締役も会社に対して責任を負う場合は、取締役も含めて連帯責任となります(会社法430条)。
なお、監査役会の決議に参加した監査役であって議事録に異議をとどめない者は、その決議に賛成したものと推定されます(会社法393条3項)。
⑵ 責任免除に関する定め
全部免除
監査役の会社に対する責任を全部免除するためには、総株主の同意が必要です(会社法424条)。
一部免除
善意無重過失の監査役については、株主総会の特別決議又は、定款の定めによる取締役の過半数の同意(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)によって一部免除することができます(会社法425条、426条、309条2項)。
また、定款で定めることにより、善意無重過失の監査役について責任を一定の範囲にとどめる、責任限定契約を締結することができます(会社法427条)。
2 監査役の会社に対する裁判例
⑴ 監査役の責任を否定した裁判例
大阪地判H27.12.14
更生会社甲の管財人Xが甲の監査役であったYに対して損害賠償請求をした事件で、「Yが監査役としての任務を懈怠したというためには、更生会社の取締役が善管注意義務に違反する行為等をした、又は、するおそれがあるとの具体的な事情があり、相手方がその事情を認識し、又は、認識することができたと認められることを要すると解するのが相当である。」としたうえで、Yは監査業務を行う中で取締役の善管注意義務違反を認識することはできなかったとして、責任を否定しました。
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本件は、会社更生手続中の更生会社の管財人であるXが、更生会社の監査役であったYに対し旧商法277条に基づく更生会社の相手方に対する損害賠償請求権の額を査定する旨の決定を求めた役員責任査定申立ての事案です。Yは、仮に更生会社の代表者であった者に善管注意義務違反となる行為があったとしても、Yがそれを認識することは不可能であったから、監査役としての任務を懈怠したとはいえないなどと主張し争いました。本決定は以下のように説示し、Xの請求を棄却しました。
「Yは、更生会社の監査役として、平成13年6月29日から平成18年3月31日までの間、更生会社の取締役の業務監査権限を有しており・・・、更生会社の取締役の職務執行に法令若しくは定款に違反する事実又は著しく不当な事実があるか否かを監査し、更生会社の取締役が違法又は著しく不当な業務執行をしないように防止する職責を有していた。すなわち、Yは、上記期間中、更生会社の監査役として、更生会社の取締役会に出席して意見を述べることができる一方(旧商法260条の3第1項)、更生会社の取締役が会社の目的の範囲内にない行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又は、するおそれがあると認めるときは、取締役会にこれを報告する義務を負うほか(同法260条の3第2項)、取締役が法令違反行為をすることによって会社に著しい損害を生ずるおそれがある場合には、当該取締役に対しその行為の差止めを請求することができ(同法275条の2第1項)、他方、相手方が、更生会社の監査役としての任務を懈怠したことによって更生会社に損害が生じた場合は、連帯して賠償する責任を負っていた(同法277条)。
そして、Y方が監査役としての任務を懈怠したというためには、更生会社の取締役が善管注意義務に違反する行為等をした、又は、するおそれがあるとの具体的な事情があり、相手方がその事情を認識し、又は、認識することができたと認められることを要すると解するのが相当である。・・・Yが、更生会社の監査役として業務監査その他の活動をする中で、・・・・ことを認識したと認めるに足る証拠もない。さらに、Yにおいて、取締役の善管注意義務違反を構成するような従業員の転籍行為があったことを具体的に疑うべきことを基礎づける事実関係を認識していたと認めるに足る証拠もない。そうすると、Yが、更生会社の監査役として活動する中で、・・・更生会社の監査役としての職務を懈怠したということはできない。・・・以上を総合勘案すると、更生会社の平成16年11月24日の取締役会において、担保設定を受けることなく本件分割払合意を含む本件土地売買契約を承認したことについて、相手方に監査役としての任務懈怠があったということはできない。」
⑵ 監査役の責任を認めた裁判例
最判H21.11.27
農業協同組合Xが、監事であったYに対して、代表理事甲が資金調達のめどが立たない状況の下で虚偽の事実を述べて堆肥センターの建設事業を進めたことにつき、監査に忠実義務違反があったなどとして損害賠償請求をした訴訟で、「Yは、Xの監事として、理事会に出席し、甲の上記のような説明では、堆肥センターの建設事業が補助金の交付を受けることによりX自身の資金的負担のない形で実行できるか否かについて疑義があるとして、甲に対し、補助金の交付申請内容やこれが受領できる見込みに関する資料の提出を求めるなど、堆肥センターの建設資金の調達方法について調査、確認する義務があったというべきである。しかるに、Yは、上記調査、確認を行うことなく、甲によって堆肥センターの建設事業が進められるのを放置したものであるから、その任務を怠ったものとして、Xに対し・・・損害賠償責任を負うものというほかはない。」として責任を認めました。
大阪高判H27.5.21
破産会社甲の破産管財人Xが甲の監査役であったYに対して損害賠償請求をした事件で、「監査役の監査業務の職務分担上、経営管理本部管掌業務を担当することとされていたことに加えて、取締役会への出席を通じて、甲による一連の任務懈怠行為の内容を熟知していたことをも併せ考えると、Yには、監査役の職務として、本件監査役監査規程に基づき、取締役会に対し、破産会社の資金を、定められた使途に反して合理的な理由なく不当に流出させるといった行為に対処するための内部統制システムを構築するよう助言又は勧告すべき義務があったということができる。そして、Yが、破産会社の取締役ら又は取締役会に対し、このような助言又は勧告を行ったことを認めるに足りる証拠はないのであるから、Yが上記助言又は勧告を行わなかったことは、上記の監査役としての義務に違反するものであったということができる。」などとして、Yの責任を認めました。
⑶ 監査の範囲が会計に関するものに限定される監査役に関する裁判例
最判R3.7.19 監査の範囲が会計に関するものに限定されている監査役について、計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば、常にその任務を尽くしたといえるものではないとした判例
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Yは、会計監査人をおかない公開会社ではない株式会社Xで、昭和42年7月から平成24年9月まで監査役であったが、その監査の範囲は会計に関するものに限定されていました。Xの経理を担当していた甲がX名義の当座預金口座から自己の名義の預金口座に送金する方法で2億を超える金額の横領し、横領の発覚を防ぐため、口座の残高証明書を偽造するなどしていましたところ、YはXの計算書類等の監査にあたり、Aから提出された残高証明書が偽造されたものであることに気付かないまま、これと会計帳簿の内容に合致していることを確認し、監査報告において、計算書類等がXの財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示している旨の意見を表明していましたが、取引銀行からの指摘を契機にAの横領が発覚しました。そこで、X社が、Yに対し、Y人がその任務を怠ったことにより、Aによる継続的な横領の発覚が遅れて損害が生じたと主張して、会社法423条1項に基づき、損害賠償を請求したのが本件です。原審は「監査の範囲が会計に関するものに限定されている監査役は、会計帳簿の内容が計算書類等に正しく反映されているかどうかを確認することを主たる任務とするものであり、計算書類等の監査において、会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかであるなど特段の事情のない限り、計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認していれば、任務を怠ったとはいえない。」としてYの責任を認めませんでしたが、本判決は以下のように説示して、破棄差戻としてしました。
「監査役設置会社(会計限定監査役を置く株式会社を含む。)において、監査役は、計算書類等につき、これに表示された情報と表示すべき情報との合致の程度を確かめるなどして監査を行い、会社の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかについての意見等を内容とする監査報告を作成しなければならないとされている(会社法436条1項、会社計算規則121条2項・・・、122条1項2号・・・)。この監査は、取締役等から独立した地位にある監査役に担わせることによって、会社の財産及び損益の状況に関する情報を提供する役割を果たす計算書類等につき・・・、上記情報が適正に表示されていることを一定の範囲で担保し、その信頼性を高めるために実施されるものと解される。そうすると、計算書類等が各事業年度に係る会計帳簿に基づき作成されるものであり(会社計算規則59条3項・・・)、会計帳簿は取締役等の責任の下で正確に作成されるべきものであるとはいえ(会社法432条1項参照)、監査役は、会計帳簿の内容が正確であることを当然の前提として計算書類等の監査を行ってよいものではない。監査役は、会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでなくとも、計算書類等が会社の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかを確認するため、会計帳簿の作成状況等につき取締役等に報告を求め、又はその基礎資料を確かめるなどすべき場合があるというべきである。そして、会計限定監査役にも、取締役等に対して会計に関する報告を求め、会社の財産の状況等を調査する権限が与えられていること(会社法389条4項、5項)などに照らせば、以上のことは会計限定監査役についても異なるものではない。そうすると、会計限定監査役は、計算書類等の監査を行うに当たり、会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでない場合であっても、計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば、常にその任務を尽くしたといえるものではない。」
3 監査役の第三者に対する責任
⑴ 悪意・重過失による任務懈怠責任
監査役がその職務を行うについて悪意又は重過失があったときは、当該監査役は、これによって第三者に生じた損害を連帯して賠償する責任を負います(会社法429条1項、430条)。
⑵ 監査報告に関する責任
監査報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録をした場合、当該行為をすることについて注意を怠らなかったことを証明しない限り、これによって第三者に生じた損害を連帯して賠償する責任を負います(会社法429条2項、430条)。
4 監査役の第三者責任に関する裁判例
大阪高判H29.4.20 非公開大会社(法令上会計監査限定とすることはできない)の会計監査限定監査役の業務監査の職責を否定した裁判例
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和牛預託商法を展開していた甲社の経営破綻に対して、被害者Xらが監査役Y等の責任を追及したのが本件です。甲社は会計限定監査役しか置いていなかったが、負債が200億円以上の大会社であったことから、法令上、会計監査人と通常監査役の両方を置くことが義務付けられ(会社法328条2項)、かつ、会計限定監査役を置くことが許されなくなる(会社法389条1項)にもかかわらず、会計監査人を置かず、またYは会計限定監査役でした。本判決は、以下のように説示してYの責任を否定しました。
「非公開会社が大会社に該当した場合、代表取締役及び株主は、速やかに上記手続を履践して会計監査人と通常監査役を選任すべきであり、それがされないのは選任懈怠である。会社法は、過料の制裁により間接的に選任懈怠の早期解消を促していると解されるが(会社法976条22号)、それ以上に、選任懈怠が生じた場合、会計限定監査役に通常監査役と同様の職責(業務監査をも行う職責)を負わせていると解釈し、会社法429条1項を適用するに当たり、通常監査役と同じ基準でその損害賠償責任を議論することは相当でないと考える。その理由は次のとおりである。
まず、監査役就任契約により監査権限が会計監査に限定されている者が、業務監査の職責まで負わせられる契約上の根拠がない。
また、業務監査を行うことを予定して選任されたのではない会計限定監査役に業務監査の職責を負わせることは、会社にとって不足であるばかりでなく、業務監査の職責を果たさない場合の法的責任(会社法423条及び429条)が生じることになるため会計限定監査役にとっても過酷である。上述したとおり、大会社に該当する場合、会計監査人と監査役を選任した上、それぞれの業務を分業することになるが、これらの選任までの間、会計限定監査役が、これらの者が行うべき職務をひとりで行うことには、少々無理がある。会社法は、その336条4項3号において、通常監査役を置く必要が生じた場合、会計限定監査役の任期を終わらせることにしており、会計限定監査役に通常監査役の職責を果たすことを当然のこととして求めているわけではないと考える。
・・・計算関係書類から、繁殖牛不足が常態化しているのに長年にわたり違法なオーナー契約の勧誘が継続されていた事実を察知することは容易ではなかったというほかなく、甲本体の違法な業務を看過したことに関連して、Yに、会計監査の過程における悪意又は重大な過失による職務の懈怠があったということもできず、会社法429条1項に基づくXらのYに対する請求は理由がない。」
名古屋高判H23.8.25
大阪地判H28.5.30