このページでは、種類株式の内容について整理しています。
会社法下では、様々なタイプの株式を発行することが可能となりました。事実上の貸付金と同様のタイプの株式も可能です。また、持株数が少ない特定の株主に、強力な支配権を付与することも可能です。種類株式を上手に利用することは、会社を運営するうえで、重要な要素になっています。
このページでは、どのようなタイプの種類株式の発行が可能なのか、整理をしています。また種類株式ではありませんが、同様の機能を有する、属人的株式の定め(会社法109条2項)についても触れています。
種類株式の種類としては、以下のものがあります(会社法108条)。
1 剰余金の配当につき異なる種類の株式
⑴ 内容
剰余金の配当につき普通株式に優先する又は劣後する株式です。参加的・非参加的(※1)、累積的・非累積的(※2)などにより、優先性を変化させることが可能です。また、トラッキング・ストック(特定の子会社や事業部門の業績に価値が連動するように設計された株式)なども発行が可能です。
(※1)優先株主が優先配当を受けた後に、残余の配当にも参加して受け取れるものを参加的、受け取れないものを非参加的と呼びます。
(※2)ある年度に、優先配当金全額が支払われなかった場合、不足分について翌年度以降の配当から受け取れるものを累積的、受け取れないものを非累積的と呼びます。
⑵ 留意点
剰余金の配当も残余財産の分配を受ける権利も無い株式は発行できません(会社法105条2項)。逆に,いずれか一方について権利を有しない株式は発行可能と考えられています。
2 残余財産の分配につき異なる種類の株式
⑴ 内容
残余財産の分配につき、普通株に優先ないし劣後する株式です。また、トラッキング・ストック(特定の子会社や事業部門の業績に価値が連動するように設計された株式)なども発行が可能です。
⑵ 留意点
剰余金の配当も残余財産の分配を受ける権利も無い株式は発行できません(会社法105条2項)。逆に,いずれか一方について権利を有しない株式は発行可能と考えられています。
3 議決権制限株式
⑴ 内容
無議決権ないしは一定の事項についてのみ議決権を有する株式です。また、一定の事項についてのみ議決権を有しないとすることや、一定の条件付きで議決権を与えること(例えば、優先配当がされなかった場合に、議決権が付与されるなど)も可能です。
⑵ 留意点
公開会社(※)については議決権制限株式は2分の1以下とする必要があります(会社法115条)。
(※)「公開会社」とは、一部でも譲渡制限のない株式を発行している会社です(会社法2条5項)。
4 譲渡制限株式
⑴ 内容
株式譲渡につき取締役会又は株主総会の承認にかからしめる株式です。
⑵ 留意点
全株について譲渡制限株式とすることもでき(会社法107条1項)、その場合、当該発行会社を閉鎖会社と呼ぶことがあります(法律上の用語ではありません)。逆に、一部でも譲渡制限のない株式を発行している会社は「公開会社」と定義されています(会社法2条5項)。
5 取得請求権株式 株主から取得請求できる株式です。
⑴ 内容
株主が発行会社に対してその株式の取得を請求することができる株式です。
取得の対価として定めることができるのは、現金だけでなく、社債、新株予約権、普通株式、その他の財産です(会社法108条2項5号,107条2項2号)。取得の効力は株主が請求した日に発生します(会社法167条1項)。
⑵ 留意点
全株について、取得請求権株式にすることも可能です(会社法107条1項2号)。
対価が発行会社の他の株式以外の財産を交付する場合には、財源規制の適用があるので、当該時点の財務状況によっては交付ができない場合があります(会社法166条1項ただし書、461条2項)。
6 取得条項付株式 発行会社から取得請求できる株式です。
⑴ 内容
一定の事由が生じたことを条件として発行会社が強制的に取得することができる株式です。「取締役会が定める日」との定めも有効です。
発行会社は予め定款で、取得の対価として現金、社債、新株予約権、他の種類株式などから、対価の種類を定めます(会社法108条2項6号,107条2項3号)。実務的には、普通株式や現金を対価とすることが多いです。
⑵ 留意点
全株について、取得条項付株式にすることも可能です(会社法107条1項3号)。
7 全部取得条項付種類株式
⑴ 内容
株主総会の特別決議によりその種類の株式の全部を取得することができる株式です。
⑵ 留意点
社債,新株予約権,新株予約権付社債,株式等以外の財産を交付する場合には,分配可能額の範囲内でなければなりません(会社法461条1項4号)。
⑶ 全部取得条項付種類株式と同時に第三者割当増資をする場合の手続き
普通株式しか発行していない会社が、普通株式を全部取得条項付種類株式に変更し、当該株式を取得すると同時に、第三者割当増資を行う場合の手続きの概要は以下の通りです。なお、金融商品取引法上の手続きは以下には含まれておりません。
時系列(条文は会社法) | 内容(条文は会社法) |
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事前開示手続 | 171条の2第1項1号又は2号(株主総会の日の二週間前など)のいずれか早い日までに、一定の事項を本店に備え置き、株主の閲覧等に供さなければなりません(171条の2第1項)(取得日後6か月経過するまでの間)。 |
株主総会の特別決議(309条2項3号、11号) | ・種類株式発行会社となる旨の定款変更決議(111条2項、466条、108条2項) ・既存株式に全部取得条項を付する定款変更決議(取得対価の価額の決定方法を定めておく必要があります(108条2項7号イ))(108条2項、466条)。 ・全部取得条項付種類株式を取得する旨の決議(171条1項3項、155条5号) |
種類株主総会 | 定款変更にかかる、当該種類株主による株主総会(111条2項、324条2項1号) 上記の通常株主総会と同日に行うことが通例です。 |
スポンサーに対する第三者割当増資に関する取締役会決議(201条1項) | 公開会社以外の会社の場合は株主総会決議(199条2項、309条2項5号) |
種類株主に対する通知・公告(116条3号、4号) | |
定款変更・取得の効力発生、第三者割当増資の払い込み | 取得した株式は消却(178条2項) |
事後開示手続 | 取得日以降遅滞なく、一定の事項を本店に備え置き、旧株主等に閲覧等に供さなければなりません(取得日から6か月)(173条の2) |
(補足)定款変更に反対する株主は、一定の手続きを踏むことで、反対株主の株式買取請求を行使することが可能です(会社法116条)。また,全部取得条項付普通株式の全部の取得を承認する旨の決議に先立ち、全部取得に反対する旨通知し、かつ、総会において反対することにより、会社法172条1項に基づき、取得価格の決定の申立てが可能です。
【参考裁判例】
福岡高判H26.6.27:分配可能額がないため少数株主が会社法172条による救済を受けられない場合であっても、全部取得条項付種類株式による少数株主の締出しの総会各決議は有効であるとした裁判例(上告棄却、上告受理申立不受理)
東京地決R2.7.9 全部取得条項付種類株式を取得する旨の株主総会決議までの間に株式の取得についての法律行為(売買契約など)がなされ、取得価格決定の審理終結までの間に対抗要件を具備している株主は取得価格決定の申立てができるとした裁判例(前段につき、東京高決H27.10.14、東京高決H28.3.28など同旨)
8 拒否権付株式(通称:黄金株)
株主総会、取締役会、清算人会において決議すべき事項につき、そられの決議に加えて、当該種類の種類株主総会の決議を必要とする株式です。
9 取締役等選任件付種類株式
⑴ 内容
その種類の株式の種類株主総会において取締役・監査役を選任することができる株式です。
⑵ 留意点
閉鎖会社(全株が譲渡制限株式の会社)でかつ、指名委員会等設置会社でない会社に限られます(108条1項本文)。
10 属人的株式(会社法109条2項)
種類株式と同様の機能を有するものとして属人的株式の定めがあります(会社法109条2項)。
属人的株式とは、配当、残余財産の分配、株主総会における議決権について、株主毎(株式毎)に異なる定めをした株式です。例えば、ある株式だけ議決権を多くするなどのことが可能になります。
閉鎖会社(全株が譲渡制限株式)でのみ、発行が許されています。
種類株式との違いとしては、種類株式は登記されますが、属人的株式は登記されない点が挙げられます(会社法911条3項7号)。
詳しい内容は、以下のリンク先をご参照下さい。