取締役の報酬を支払う条件とは(最判H15.5.21と福岡高判R4.12.27)

会社法361条1項は、「取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。」と規定しています。定款で定めている例はほとんどなく株主総会の決議によることが一般的です。

しかしながら、中小企業などでは株主総会決議を取っていないケースもあります(そもそも株主総会もきちんと開催していないケースも散見されます)。株主総会決議がない場合、取締役は受け取った報酬を返済しなければならないのでしょうか。結論としては、返済義務が生じます(最判H15.2.21)。

最判H15.2.21は、株式会社Xが、Xの代表取締役であったYが取締役の報酬額を定めた定款の規定、株主総会の決議又はこれに代わる全株主の同意がないのに取締役の報酬の支給を受けたことが商法269条(現会社法361条)に違反するなどと主張して、損害賠償責任を追及した事案です。最判は「株式会社の取締役については、定款又は株主総会の決議によって報酬の金額が定められなければ、具体的な報酬請求権は発生せず、取締役が会社に対して報酬を請求することはできないというべきである。けだし、商法269条は、取締役の報酬額について、取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの弊害を防止するために、これを定款又は株主総会の決議で定めることとし、株主の自主的な判断にゆだねているからである。そうすると、本件取締役の報酬については、報酬額を定めた定款の規定又は株主総会の決議がなく、株主総会の決議に代わる全株主の同意もなかったのであるから、その額が社会通念上相当な額であるか否かにかかわらず、YがXに対し、報酬請求権を有するものということはできない。」としてXの請求を認めました。

ところが、福岡高判R4.12.27は、役員退職慰労金について、株主総会決議がない場合でも取締役に請求権があると説示しました。この裁判例は、甲株式会社の代表取締役であったXが、同人の後に甲社の代表取締役となったYに対し、Xが役員退職慰労金の支給を受ける地位にあったにもかかわらず、Yが主導してXの役員退職慰労金の支給に関する議題を株主総会に付議せず、これを支給しなかったことが、Yの善管注意義務及び忠実義務に違反し、不法行為に当たるとして、甲社の役員退職慰労金規定に基づく役員退職慰労金相当額などを請求した事案です。本判決は、「Xと甲社との取締役任用契約締結時に、取締役退任時には退職慰労金を支給するとの書面等による明示の特約があったことを認めるに足りる証拠はない・・・しかしながら、Xと甲社との取締役任用契約締結時には、既に役員退職慰労金について定める本件規定が存在したところ、・・・本件規定は、退任した役員に支給すべき慰労金は、本規定により計算すべき旨の株主総会の決議に従い、取締役会が決定した額とするとした上で、具体的な算定方法を定めている。また、本件規定が制定されて以降、甲社において14名の役員が退任し、・・・D以外については、それぞれ役員退職慰労金の支給に関する議題が株主総会に付議され、同支給決議がなされて、役員退職慰労金が支給された・・・。なお、前記Dは、従業員退職金を得たことから役員退職慰労金を辞退し請求しなかった・・・Xは入社と同時に取締役となったものであるから・・・、甲社の従業員であった時期はなく、したがって、Xが甲社の従業員退職金の支給を受けたような事情もない・・・以上の本件規定の存在及びこれに基づく運用並びにXの取締役就任時の状況に照らせば、Xについては、他の取締役が受ける措置のうち相当と認められるものを受けることができることが黙示に合意されていたものというべきであるから、Xと甲社との間の取締役任用契約には役員退職慰労金を支給する黙示の特約があったものと認められる。」として、Xに退職慰労金を受給する権利があると説示しました。

原則として取締役が報酬を受け取るためには株主総会決議が必要ですが、黙示的にでも会社と取締役の間で支払う合意があれば、株主総会決議がなくても会社に支払義務が発生すると整理できるものと思われます。しかしながら、会社と取締役の合意について、株主が全く知らなかったような場合にまで、合意が優先するのかはまた別途議論があると考えられます(私見としては、合意は無効となるような気が致します)。

このあたりが、法律の面白いところでもあり、難しいところです!!

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA